研究課題/領域番号 |
26350359
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福島 真人 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (10202285)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 科学技術社会論 / 科学社会学 / 科学人類学 / サイエンス スタディーズ / 生命科学の社会学 |
研究実績の概要 |
本研究計画を、データ部門と生物医学部門の交錯と考えると、本年度最も労力を集中したのは、データ部門の一般的な特性についての分析である。特に大量のデータを扱うビッグデータには、データの質、データ関係の情報(あるいは知識)インフラの問題、さらにそれらを解析する計算科学系の問題等いくつかのポイントがある。本年度は、こうしたいくつかの側面のうち、情報インフラという側面について、それがどのような性質をもち、どういう問題点があるかを理論面、実践面の両面から研究を行った。知識インフラがもつ社会的特性は、現在科学論を中心として、活発な研究が行われているが、単にデータベースをどれだけ整備するかといった問題だけでなく、その維持と改善、データの収集、その活用様式といったさまざまな問題がある。 こうした知識インフラが持つ諸特性に関して、本年度は特にそれに関係する研究者がもつ、価値面での矛盾について、考察を行った。データベースの整備や計算科学によるタンパク構造の分析、創薬での利用といった諸分野は、それ自体が研究の中心であるという側面と、他の分野のいわばサポートに当たるという両面がある。インフラ整備の考えが広くいきわたってきたとはいえ、それがもつ下請け的な側面を回避するという行動を、研究者は取りがちである。そのことが、バイオ情報学のような学際的な分野において、一方で研究としての革新を展開する、という側面と、他方、生物学その他に必要なサポートを提供するという二つの矛盾した使命の間で、引き裂かれる傾向がある。それは基礎研究にせよ、創薬研究にせよ、どの分野でも見られる矛盾であり、現実には、そのふたつの微妙なバランスをとりながら、現場での作業を進めているという現象がみられる。それを価値振動(value oscillation)という名で呼ぶことを提唱した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、バイオ情報学等についての、具体的なデータ、あるいは歴史的展開を探るというよりも、むしろその背後にある、知識インフラという分野の全体的な傾向、あるいはそれにまつわる議論に注意を向けたため、その後者のレベルでの議論の促進という意味では顕著な親展があったが、バイオ情報学等については、来年度より踏み込む必要がある。また創薬研究における、AI利用という現在急速に進展しつつある分野もあり、多少の軌道修正も必要と考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は特にバイオ情報学を中心に、先に提案した価値振動という考え方と、それを取り巻く制度的な問題の関係に焦点をあて、研究を進める。カリフォルニア大学アーヴァイン校のG. Bowker 教授(知識インフラ論の第一人者)およびそのグループとの協力関係が構築できたので、そのネットワークを利用しつつ、知識インフラとしてみたバイオ情報学その他の日本的展開の現状と問題について、より突っ込んだ情報収集、分析を行う。特に国際的に見ても、この分野での日本の立ち遅れはかなり問題を含んでおり、近年のiPS研究の政策的な傾斜のうらで、かなり深い問題が存在しているが、その点への手がかりを探る。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に予定していた国際会議出張が諸般の事情によりできなくなり、その費用分が浮いてしまった。
|
次年度使用額の使用計画 |
今年度は国際科学技術社会論学会(スペイン、バルセロナ)等での研究発表の予定があり、それに予算を充当する予定である。
|