研究課題
今年度は、探求の範囲を生物学の周辺で急速に進展するビッグデータおよびそれに関係した理論的、実践的な領域について情報を収集し、それと生物学の関係をより深く探求する方向へと議論をすすめた。特に重要なのは、ビッグデータにかかわる領域における、全体のコーディネーションをめぐる問題である。ビッグデータという概念そのものが、得られるデータの質、それを処理する方法、それを支えるハード的の性質、さらに政治、法制度といった面で、多様な面を示しており、それらの進展がややいびつな形で進んでいる。技術の進歩における、期待の役割とその弊害を分析する「期待の社会学」からいうと、現在のビッグデータや計算科学への大きな期待は、その方向性を大きく推進するフェーズにあるといえるが、他方同社会学が指摘するように、こうした期待がインフレ的な拡張をすると、それが現実の制約によって、膨らんだ期待が一挙に縮小し、ちょうどバブル崩壊のような現象をもたらしうることが、多くの技術発展の経過の具体的事例からもよく知られている。こうした観点から現象をみると、スーパーコンピュータに代表されるハード面では格段の進歩が見られる一方、それらを具体的に推進する母体となるはずのバイオインフォマティクスといった分野では、人材育成上の問題が散見し、関係する学会の活動もやや停滞的だという報告が多く見られる。また創薬にかかわるそうしたビッグデータの具体的活動、たとえばタンパク質+リガンドの相互作用をビッグデータと機械学習で推進しようといった先端的な試みも、最適とされる組み合わせを現実に合成するような研究者の協力がなかなか得られないという、現場レベルでの制約もある。これらはみな、表面上の期待の追い風に対して、現存する制度的、慣習的な仕組みがそうした期待のインフレに必ずしも対応できていないという複雑な現実を表している。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件)
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