研究課題/領域番号 |
26350361
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
高橋 智子 山梨大学, 総合研究部, 准教授 (70282019)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 原子力の研究開発史 / 日米原子力協力協定 / 日本原子力研究所 / 原子力基本法 / 濃縮ウラン問題 |
研究実績の概要 |
1950年代の原子力予算成立から原子力基本法、原子力委員会の成立に至るまでの、いわば行政的には「空白」な期間における専門家や産業界の議論を中心に検討を行った。また国会図書館中心に、当時の一般的な雑誌に投稿された専門家たちの原子力関係の記事を収集した。 原子力予算の成立から原子力開発体制が実際に動き出すまでに1年数か月の時間があるが、この間の原子力開発をめぐる議論は、基本的に政治指導とはいえ、「経済優先・安全軽視」のような議論は少数派であって、圧倒的多数の意見は安全を優先するものであったことを確認した。むしろこの時代の問題は、原子力の「平和利用」であり、安全確保の前提条件として、「平和利用」の確保が位置づけられていたのであり、原子力基本法における「自主・民主・公開」の三原則についても、科学者側の主張は、「公開」がもっとも重要な条件として認識されていたことを確認した。この原子力の「平和利用」をめぐる学術会議の議論は、軍学共同研究が進む今日、改めて「デュアルユース問題」としても注目されているが、科学の多義性とデュアルユース技術の問題とは異なる問題として、『サジアトーレ』に論文「「原子力の研究と利用」問題はデュアルユースの問題であったのか――原子力三原則の成立事情を振り返って」を投稿した。 また、多くの関係者の「安全優先」の想いとは裏腹に、さまざまな利害関係の調整の結果として出来上がった研究開発システムは、研究開発現場にとっては「安全優先」が可能になるような体制ではなかったことを確認した。実際、原子力基本法の成立とほぼ同時に締結された「日米原子力協力協定」により、原子力の研究開発の現場では、この協定のもとで導入された「濃縮ウラン」と輸入原子炉により研究がスタートしたことを確認した。この結果を招くことになった「濃縮ウラン問題」の議論については、学会発表にエントリーしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
被爆者であり、また京都大学理学部の湯川研究室の出身者で、科学雑誌『自然』の編集に関わり、さらに原子力産業会議の設立から参加し、事務局長、副会長まで務めた森一久の資料整理が行われ、これまで知られなかった産業界内部の議論を知ることのできる資料が入手できたこと、原発推進に慎重な態度をとった学術会議ではあるが、理論物理学者・実験物理学者・工学者など専門分野によって実際にはかなり意見は異なっていたことを裏付ける史料が入手できたことなど、技術開発と安全性確保をどう見るのかについて、是非の対立構造ではない、新たな構造分析が可能になった点で、順調に進んでいる。 また実質的な原子力研究開発の始まりを画することになる濃縮ウラン導入問題の分析によって、技術というものの形での企業秘密や国家機密が壁となり、結果的に「失敗体験を持たない安全確保の体制」のもとで進んだ日本の原子力開発がもつ「根無し草的な弱点」が見えてきたなど、今後の新たな分析視点が得られた点も評価できる。 その一方で、電力会社とメーカーとなる電機産業との具体的な関係や技術選択における力関係などを知りえる史料発掘が上手く進んでいないために、技術選択の視点からの分析に弱点が残る形になっている。
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今後の研究の推進方策 |
電力会社の資料収集に力を入れることにし、電力会社にとって1950年代にどのような魅力が原子力開発にあったのか、全国的な原発候補地の選択がどのような形で進められたのか、その具体的な展開を明らかにする。今日では電力会社側に原子力技術開発や安全確保の技術力は基本的にはなく、原子炉メーカーなどの側にある。こうした「技術の外注」は多くの分野で進むことになるが、このことと技術の社会的安全の問題がどう関わっていたのかを検討する。そのために、改めて電力会社の経営側の人物へのヒアリングを検討する。 これまでに収集してきた放射線防護の史資料を整理し、今日の低線量被ばく問題における混乱の一因を分析する。この確率的な成果を不可避とする分野のコミュニケーションの在り方については、トランスサイエンスなどが提案されてきているが、必ずしも日本で受け入れられているとはいえない。この点について、今日の福島原発での被災者や原発労働者へのヒアリングを実施する予定である。 こうした国内での状況を踏まえ、初年度に収集したアメリカの資料を対照させた分析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コンピュータのOSの変更等で、既存のパソコンが不安定になり、データベースの構築と公開についての作業を上手く進めることができず、新たに専用のコンピュータの必要が生じたが、その予算確保や機種選定などに時間を取られ、実際には購入できなかったこと、そためにデータベースの公開やホームページのリニューアルが行えなったことで、前年度の繰り越し分をそのまま繰り越すことにつながった。
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次年度使用額の使用計画 |
データ保存と公開用のパソコン購入と電力会社関係者のヒアリング費用として使用する。
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