研究課題/領域番号 |
26350362
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊藤 和行 京都大学, 文学研究科, 教授 (60273421)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 科学革命 / ガリレオ / 天体観測 / 望遠鏡 / 手稿 / Smart-GS / 木星の衛星 / 太陽黒点 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、ガリレオの天体観測ノート(とくに1610年初頭の木星の衛星観測および1612年前半の太陽黒点観測)および『星界の報告』の草稿を、手稿読解に適した画像検索ソフトウェアSmart-GSで扱うことが可能な形式に加工し、木星の衛星と太陽黒点に関するガリレオの観測過程の検討を開始した。Smart-GS上で、木星の衛星に関するノートを『星界の報告』の草稿と比較検討することを通じて、ガリレオの手稿読解への手懸かりを得てノートの読解を進めている。またそこで得られた情報に基づいて、読解情報が少ない太陽黒点観測ノートの読解を試みている。 第二に、ガリレオの天体観測に関する最初の報告である月に関する書簡と『星界の報告』の記述を比較検討し、複数の機会に口頭発表した。発表「ガリレオ『星界の報告』における月の図版」では、図版とくに月の図版に着目し、当時の他の版や45年ほど後に刊行された最初の著作集の図版と比較検討した。発表「ガリレオの天体観測における地球のアナロジー」では、彼の月の観測は、何も理論的前提のない観察ではなく、月を地球とのアナロジーで捉えるという観点に基づくものだったことを検討した。ガリレオの業績は、単に望遠鏡によって観察した「事実」を指摘しただけでなく、それから宇宙論的な主張を導出したことにあり、その過程においてアナロジーが重要な役割を果たしていた。この観点は、太陽黒点の議論においても重要な役割を果たしていると考えられる。この問題について、研究ノート「ガリレオの天体観測(1)―月―」をまとめた(月の観測報告である書簡の翻訳を含む)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、天体観測ノートの中でも、1610年1月から3月にかけての木星の衛星に関する手稿、および『星界の報告』の草稿の画像データをSmart-GSで処理することを通じて、ガリレオの手稿読解のインフラを築くという点については順調に進んでいると考えらている。特に『星界の報告』の草稿と刊本を比較検討することによって、ガリレオの手書きの癖などの多くの読解情報が得られた。この情報は木星の衛星や太陽黒点といった天体観測のみならず、他の領域の手稿読解の際にも手懸かりとなることが期待される。 月の観測に関する書簡と『星界の報告』記述の比較検討は、当初の研究計画には挙げられておらず、木星の衛星および太陽黒点に関する観測に関する手稿研究の準備的なものとして行ったものである。しかしその過程において、ガリレオの天体観測においても一種の理論的前提ともいうべきがあったことが確認され、この点は、刊行された著作の背後に隠されている着想や思考過程を探求するという本研究の目的に鑑み、木星の衛星や太陽黒点に関する今後の研究にとって重要な道標となると考えられる。 ガリレオ手稿目録のデータベース化については、本目録は5部から構成されているが、とくに天文学に関わる部分から作業を進めている。当初の計画では手稿の画像データや読解テキストとの連結を行うことになっていたが、この点については検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に引き続き、木星の衛星に関する観測ノートの記述と、『星界の報告』の記述(草稿および刊本)との比較検討を進める。とくにガリレオが木星の衛星を発見した1月中旬の観測ノートの内容を『星界の報告』の草稿と比較することによって木星の衛星発見の過程を検討し、研究成果を学会発表および論文としてまとめる。次いで『星界の報告』の草稿と刊本との記述内容の比較を著作全体へと進め、そのテキストの作成過程について検討するとともに、ガリレオが観測内容を発表するまでの観測および研究活動の内実について考察を進める。 Smat-GSにおいて蓄積された読解データを利用して、1612年前半の太陽黒点観測ノートの読解を完了し、その読解結果に基づいて、初期の観測と太陽黒点に関するガリレオの見解との関係を考察する。また読解結果を印刷物などで発表・公開する。また図版は、木星の衛星や太陽黒点の観測においても重要な役割を果たしており、この観点からの研究も進めることを考えている。 次年度への準備として、1610年3月以降の木星衛星の観測ノート、および衛星の周期や位置計算に関連する手稿をSmart-GSで処理可能にする準備作業を行う。 当初の計画では、手稿目録のデータベースを手稿の画像データと読解テキストを連結することになっていたが、目録の中で天文観測に関わる部分は一部であるので、手稿目録全体と連結することは手稿の検討作業にとって必ずしも有効ではないように思われる。天体観測関係の手稿のデータベース化に関しては再検討を行っている.またSmart-GSとのデータのやり取りをどのようにするかという問題もあり,この点に関しては開発担当者とも相談していく予定である。
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