本研究では、近代科学の父と呼ばれるガリレオ・ガリレイの科学的活動に関して、望遠鏡による天体観測に焦点を定めて考察を行った。とくに1609年末から1612年における彼の天体観測のノートおよび著作の草稿を読解し、交換された著作の内容とも比較することを通じて、彼の天体観測活動の実態を探るとともに、彼の新しい宇宙論の形成と天体観測の関係を考察した。 最終年度は、1612年における太陽黒点に関する初期観測ノートの分析結果を "Galileo's early observations of sunspots" として発表した。ガリレオの黒点の本性に関する考えは黒点観測の初期の段階に生まれており、それは天上世界を地上世界とのアナロジーによって理解しようという、すでに月表面に対してなされていたアプローチを太陽に対して適用したものと考えることができる。 ガリレオの天体観測は、地球と月のアナロジー、さらには地上界と天上界の同質性の確証や太陽中心説の擁護という宇宙論的な問題意識のもとで行われており、彼の観測は理論負荷性をもっていたものと理解される。この天体観測における観測と理論の関係という問題に関しては、ガリレオの主張が論点先取の問題を含んでいたことを、月の表面、木星の衛星、太陽黒点の本性に関する議論を取り上げ、学会発表「ガリレオの天体観測―観察と理論―」・「ガリレオの太陽黒点論―観測と理論―」において考察している。 本研究を通じて、ガリレオの望遠鏡による天体観測の背景には、地球と月のアナロジーに代表されるような宇宙論的な主張が理論的前提として存在し、それに依存する形で観測が行われ、結果が理解されていたことが、彼の天体観測に関わる史料(ノート、書簡、草稿、著作)の分析を通じて明らかになった。
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