研究課題
京都の岩倉は18世紀末には精神障害者を大雲寺門前茶屋や農家で預かるところとして有名になっていた。その岩倉に設立された岩倉病院(1884年~1945年)の様子を、南方熊楠の書簡集から知ることができ、平成28年の日本精神医学史学会で発表した。南方熊楠は息子熊弥の介護に苦しみ、昭和3年(1928)から昭和12年(1937)まで熊弥を岩倉病院に入院させていたのである。ところがその書簡集を見ていると、熊楠が関心を持っていたのは、入院治療ではなく、一般家庭における家族的な看護であったようである。事実、熊弥を退院させた後、熊弥の特別看護人をしていた人の家庭に熊弥を預けている。大正8年(1919)施行の精神病院法により、一定の基準を満たす私立精神病院が道府県立精神病院の代用とされることになり、岩倉病院は大正9年代用精神病院に指定された。岩倉病院の資料の分析を進めていくと、代用精神病院指定に関する書類がかなりの量を占めていて、それが岩倉病院にとって大きな出来事であったことがわかる。ところがその指定はよいことばかりではなかったようである。公費患者を多く受け入れざるをえなくなり、公費患者に対して行政から支払われるわずかな金で経営を成り立たせるため、燃料として石炭を使って、岩倉のたきぎを使わなくなり、朝鮮米を使って、岩倉の米を使わなくなり、地元に利益をもたらさなくなったからである。(新)岩倉病院(1952年~)の若手医師たちが昭和45年(1970)頃から開放医療を積極的に進めた時、岩倉地域の住民が、急激な開放医療のあり方を批判し、病院と地域の関係がこじれたが、その原因を調べていくと、代用精神病院の指定の頃から病院と地域の関係が互恵的でなくなったことに原因があることに気づいた。病院と地域の関係を見直す視点を得たことは、大きな成果であり、様々な学会や講演会においてその視点から話をするようになった。
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二〇一六年度 差別の歴史を考える連続講座講演録
巻: 2016年度版 ページ: 55-76
福祉ニュース(障害福祉編)
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Journal of Psychological Sciences
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臨床精神医学
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