研究課題/領域番号 |
26350368
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研究機関 | 畿央大学 |
研究代表者 |
小野 尚香 畿央大学, 教育学部, 教授 (70373123)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 神経発達障害 / 小児保健 / 特別支援教育 / 障害児福祉 / 国際情報交換 / スウェーデン |
研究実績の概要 |
平成26年度は、ESSENCEを提唱したヨーテボリ大学教授児童精神科医C.ギルバーグ氏ならびに同教授小児神経科医E.ファネール氏が著された論文を中心に検討すると共に、スウェーデンでの現地調査を基に、その内容を中心にまとめる。 ESSENCEは就学前児童において、診断を下すことよりも症状に焦点を当て、どのような支援が最適であるのかを、複数の専門家の意見をまとめながら検討していく方法を指す。子どもが持つ特性を十分把握して対応することで、インクルージョン教育あるいは個を大切にするダイバーシティー教育に通じる。 2回のスウェーデン出張を通して、特に特別支援教育の立場から観察した。訪問先は、首都であるストックホルム、ストックホルムから電車で北へ約2時間のジェブレ、そして電車で南西へ約4時間のヨーテボリが中心であった。訪問施設は、教育委員会、病院、精神科クリニック、就学前施設・小学校・中学校そして特別支援学校であった。 まずスウェーデンの教育理念について、ストックホルム大学特別支援教育部担当部署での聞き取り調査の結果、前述のダイバーシティー教育の実践ならびに2010年「改正学校教育法」による教育現場の変化が特徴的であった。 今年度は主にジェブレにおける特別支援教育の実際、特にESSENCEの実践に関する調査を行った。この地方の学校医であるA.コグストローム医師は、ジェブレで20年前から「Bryggan(日本語訳で橋)」という組織を立ち上げられ、診断に関わらず支援を必要としている子どもたちに早く気づき支援することを目標とした。この組織こそがギルバーグ氏の提唱するESSENCEを体現していると考えられる。今後、小学校以降の特別支援教育のあり方や、ジェブレで取り組もうとしているESSENCEをベースにした教育のあり方について調査を続ける。その他、病弱教育におけるプレイセラピーやプリパレーションについても検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の目的として四段階をあげている。 第一段階の「世界的な影響を与えているスウェーデンの医学理論に関わる主要論文を時系列的に整理する」に関しては、ヨーテボリ大学教授C.ギルバーグ氏ならびに同E.ファネール氏の二人が所属するヨーテボリ大学ギルバーグ神経精神センターのホームページから50編以上の論文をダウンロードして、既に要約は完成した。 第二段階の「神経発達臨床所見を呈する発達障害のある子どもに対するスウェーデンの施策を整理する」に関しては、概要でも述べたように、インクルージョン教育やダイバーシティー教育といったスウェーデン教育の理念に通じる内容を、インタービューあるいは論文を通して得ている。具体的には、サンドビッケンモデルにも通じるジェブレでの実践を、地元の学校医であるコグストローム医師を今年度に2度訪問して、お話を聞くとともに教育の現場についても参与観察を行った。 第三段階の「小児保健ならびに学校保健活動における医学理論の影響について明らかにする」に関しては、一部インタビューなども行っているが、これからの課題である。 これからをまとめて最終段階に入るが、今後2年間の課題と考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の研究成果を基に、サンドビッケンモデルの構成要素である小児保健と学校保健のフォーマルケアシステムに対する実態調査を、サンドビッケンと同じ地域にあるジェブレの参与観察を中心に行う予定である。その上で、実態を整理するとともにヨーテボリ大学教授ギルバーグ氏の提案をはじめとする新しい医学理論が、どのように導入されているのかについて検討する。 小児保健については、その目的や理念、発達アセスメントや援助技術並びにその効果を、資料と従事する専門職(小児専門看護師、保育士、心理士)へのインタビューによって明らかにしていく。現地調査として平成27年9月の1週間程度を予定している。 学校保健についても、早期気づきや特別な配慮ならびに特別支援教育に対して、医学理論がどのように導入され応用されているのか、学校保健の目的や理念、発達アセスメントや指導・支援技術ならびにその効果を、資料と従事する専門職(学校医、学校看護師、特別支援教育教員)へのインタビューによって明らかにする。現地調査として、平成28年3月の1週間程度を予定している。 上記と並行しながら、神経発達臨床所見を呈する発達障害のある子どもに対するスウェーデンの法律や施策および統計資料について、主にインターネットを用いて収集する。現地調査結果に行政資料を合わせて、医学理論が社会システムへおよぼす作用について経年的に整理し、その社会的機能ならびに専門職の思考の変化やシステムにおける役割について分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年3月1日ー10日におけるスウェーデン現地調査の清算が完了していないため。
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次年度使用額の使用計画 |
基本的な使用計画は本年度と大きな差はない。 平成27年3月1日―10日のスウェーデン現地調査宿泊費の清算。
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