研究目的として掲げた3項目に関するそれぞれの研究実績概要は次の通り。 (1)軍民両用科学技術の概念に関する調査では,今回の研究がはまった後になって登場した、「安全保障技術研究推進制度」(2015年度開始)や第5期科学技術基本計画の中に登場した「安全保障に資する技術」開発施策など、現代の話題を加え、軍民転換、民軍転換、および軍民融合を理解できるために、軍民両用科学技術の概念を拡張させることが必要であることを検討した。調査の途上での成果は、研究会や論文発表以外にも、「クローズアップ現代+」などNHKの番組の解説にも利用できた。特に、スピンオフ(軍民転換)によって民生用の技術開発につなげようという軍事技術主導説的な政策には、軍事研究における「経路依存性問題」が存在するゆえに、効果的な手法とはなり得ない点を、歴史的な研究から指摘できた。 (2)占領期における軍民転換の問題については、敗戦後の旧海軍の電子技術分野の技術将校らによる、職業転換、戦時中の兵器の流用や兵器用備品の流用、あるいは戦時中に開発活動を行った経験などを含む形での軍民転換のプロセスを明らかにできた。とくにマイクロ波技術に関しては、旧海軍の島田実験所における事例が、占領期における軍民転換において大きな影響を与える素材となっていることが分かった。 (3)戦中・戦後のエレクトロニクス史再構築に関しては,敗戦後・占領期における海軍のエレクトロニクス技術を中心とした軍民転換のプロセスに注目し、海軍のマイクロ波型レーダーや橘型マグネトロンの占領期における活用はあったが、戦時中の技術は占領期が終わる前に淘汰され、技術提携を通した国産化に変わる過程が分かった。戦時中の経験は、残存研究者の人材活用に止まることが明らかになった。
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