研究課題
異なる気候帯にある地域や遺跡単位で、黒曜石水和層法が年代測定法としてどの程度の有効性をもつかを検討した。黒曜石に浸透する水がガラスと親和することによって形成される水和層は温度に応じて発達する速度(水和速度)が変化する。そのため、温度条件が異なる地域間では同じ時期に残された遺跡においても厚さが異なることになる。一方、地域的な気候条件が一定であれば水和層の発達はある程度の変異を持ちつつも一定であると考えられるため、その有効性が期待される。本研究では、温帯域の南九州(鹿児島県)、中部高地(長野県)、亜寒帯の北海道東北部、温帯に位置し温度の年較差が小さい大西洋のテネリフェ島(カナリア諸島)の多地域をとりあげ、先史時代の遺跡から得られた黒曜石を用いた石器をサンプルとし、水和層の観察と計測を実施した。計測方法は従来のスタンダードな方法であるプレパラート法による偏光顕微鏡下での観察と計測を基本とした。また一部のサンプルについては、計測値の信頼性と妥当性を検討するため二次イオン質量分析法(SIMS)を用いて水和層を形成する水素イオンの濃度分布を比較検討した。主な成果は:(1)南九州地方では、後期更新世~完新世前期の遺跡から得られたサンプルについて水和層の厚さを比較した。複数文化層の存在から新旧関係が明らかな遺跡については水和層の厚さが堆積層の新旧と大きくは対応する一方で、同一の文化層内のサンプルに水和層厚のばらつきが大きい結果となった。北海道東北部では同一遺跡の5種類の石器群の水和層厚に有意な違いが認められ、石器群を構成する母岩単位における含水量の差が影響している可能性が考えられた。(2)同位体顕微鏡と連動したSIMSによって水素イオンの分布を可視化することに成功した。偏光顕微鏡下で水和層を計測箇所の水素イオンの厚さと偏光顕微鏡下で計測した水和層厚を比較した結果、相関関係が認められた。
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Quaternary International
巻: 442, Part B ページ: 43-54
https://doi.org/10.1016/j.quaint.2016.07.019