本研究は、遺跡から出土する動物遺存体の観察や計測および同位体分析などの複合的な考察によって、近世城館や城下町での動物資源利用やそれらに係わる文化・技術の様相、また、ものの流通の特徴を抽出し、中国四国地域における地方近世城館や城下町での人々の暮らし(食文化や動物との関わり)を具体的に明らかにすることを目的として実施した。 昨年度までに対象資料の調査分析を進め、近世城下町遺跡3遺跡の報告書にその成果の一部を発表した。 最終年度は、未記録であった松江城下町遺跡出土の貝殻資料の計測値のデータ化作業とウシ角製品の実測図のデジタルデータ化作業を進めるとともに、これまでの研究成果を広く発信するための公開シンポジウムを開催した。シンポジウムでは、本研究課題で分析した遺跡のうち、広島城跡(広島県)、松江城下町遺跡(島根県)、高松城跡・丸亀城跡(香川県)の中国四国地方の3地域から各調査関係者を招き、遺跡調査の概要やそれぞれの地域の近世城下町の特徴について講演していただいた。研究代表者の石丸は、出土動物遺存体から明らかとなった動物資源利用の様相について発表を行った。また、発表者全員で各遺跡の共通点や差異、また個性や文化の特徴などについて討論を行った。シンポジウムには計75名の参加があり、新聞社3社の取材を受けた。 また、各遺跡出土骨資料の炭素・窒素同位体分析を行い、家畜種であるウシの同位体比がイノシシやニホンジカとは異なることが示され、近世のウシがどのような餌を食べていたのか、すなわちどのように飼われていたのかを議論するうえで貴重なデータが得らえた。さらに、縄文時代のイノシシとニホンジカの同位体比と、近世の同種の値を比較した結果、ニホンジカではほとんど変わらないが、イノシシは時代差が大きい特徴が認められた。また地域差がある可能性も示唆された。これらの研究成果の一部は雑誌へ投稿し掲載された。
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