研究課題
江戸時代人の生活を出土人骨から復元するために近畿および東海地方の胎児を含む乳幼児から成人までを対象に分析を行った。成人骨については近畿地方の山村の遺跡の死亡年齢の推定と齲歯の罹患率の分析を行ない、他の地域と比較した。乳幼児は東海地方の「子墓」から出土した人骨の年齢を推定し、死亡年齢構成に基づき地域と社会階層が異なる近畿の集団と比較することで当時の人々の生活の解明を探った。成人骨は山村の遺跡である大阪府茨木市千提寺遺跡出土の84体で、死亡年齢が推定できた31体のうち35才以下が2体と少ないが55才以上は60~80%と高い割合を占めた。同じ江戸時代で農村とされる山梨県の米倉山遺跡や沖縄の久米島の死亡年齢構成は55才以上が多く千提寺遺跡と同様の傾向を示している。しかし、都市である東京の一橋高校遺跡では35才以下の個体が最も多く、この結果は都市部と農村部の寿命の違いを反映していると推測される。また、千提寺遺跡の齲歯の罹患率は6.8%で他の遺跡と比較して少ないが生前喪失歯の割合が約50%と非常に高く、このことが齲歯の罹患率を下げていると考えられる。乳幼児骨は漁村である愛知県東海市の長光寺製塩遺跡から出土したもので、死亡年齢構成は3~5才の出現頻度が最も高く40%以上を占めた。次いで胎齢10ヶ月が多く、この原因は出産に伴うリスクが高いと推測される。一方、近畿地方の乳幼児骨は大阪府堺環濠都市遺跡の裕福な商人の菩提寺から出土したもので、死亡年齢構成では胎齢10か月が最も多く、長光寺と同様に出産が関係していると考えられる。しかし、その後の乳幼児の死亡数は減少し3~5才の個体は非常に少ない。この幼児期の死亡数の差は東海地方と近畿地方という地方差より漁村と裕福な商人の子供という生活環境が異なることによると考えられる。また、長光寺では2歳児の四肢骨に骨幹が細くなる病変が見られた。
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Anthropological Science
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田原本町文化財調査年報
巻: 24 ページ: 133-142
巻: 24 ページ: 119-132