研究課題/領域番号 |
26350383
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研究機関 | 北海道博物館 |
研究代表者 |
杉山 智昭 北海道博物館, 研究部, 学芸員 (90446310)
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研究分担者 |
今津 節生 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 博物館科学課, 研究員 (50250379)
鳥越 俊行 独立行政法人国立文化財機構奈良国立博物館, 学芸部, 研究員 (80416560)
小林 幸雄 北海道博物館, 研究部, 学芸員 (10113466)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 保存科学 / アイヌ民族資料 / X線CTスキャナ |
研究実績の概要 |
当該年度は、既に劣化が進行している資料や、複数の素材から構成される資料(漆器類、木製品、儀式用の刀、装身具など)についても、X 線CTスキャナを用いた非破壊的な内部構造調査を開始し、情報の収集・蓄積を行った。その結果、これまで情報が著しく不足していたアイヌ民族資料の製作場所や年代、交易ルート等の解明につながりうる新たな知見を得ることができた。また、外部観察からは十分確認することができなかった劣化部位に対して、施されている補修の技法および修復素材を把握し、3Dプリンタを使用して劣化部位のレプリカを作成した上で今後の保存計画について科学的見地から検討を行った。さらに蛍光X線分析調査を行い、資料金属部の元素組成を明らかにした。この情報は資料の製作や修復が行われた地域・年代を推定し、適切な保存修復を実施する上でCTスキャナによる情報を補完するものであることが示された。当該年度に得られた成果は前年度のものとあわせて、アイヌ民族の生活関連資料の製作当初の状態を高精度で類推・再構築し、現状において緊急的な保存処理の必要性を有する資料、中長期的に修復作業を要する資料を判別するにあたり、X 線CTスキャナの有用性を強く支持するものである。 当該年度得られた資料の解析結果については、平取町立二風谷アイヌ文化博物館にて開催した特別展示会「アイヌ民俗資料を解き明かす科学の力」(開催期間:2015年10月15日~12月15日)において、実際の調査資料、CTによる三次元情報に基づき3Dプリンタで作成した資料の石膏レプリカおよびパネルなどにより広く展示公開した。本展示会には会期中、多数の来場があり、科学調査がアイヌ民族資料の長期的な保存修復に果たす役割について、社会的な理解を深める契機となった。なお、本研究成果の一部については文化財保存修復学会第37回大会(平成27年 京都工芸繊維大学)において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の目的を達成するために、当該年度に計画していた「アイヌ民族生活関連資料のX 線CT スキャナによる内部構造情報の把握」については、当初予定していた資料のX線CTスキャナによる撮影調査を完了することができた。また、前年度に引き続き、取得した三次元情報の解析・解釈については研究分担者・協力者と協議しつつ取り組み、内部構造情報のデータベース化、比較調査を進めることができた。「アイヌ民族の生活関連資料の劣化状態および修復部位・修復技法に関わる調査・検討」については、劣化が確認される資料について、外部観察から確認することができなかった正確な劣化範囲の把握、構造的に脆弱となった部分の特定を行うことができた。また、行器や片口、杯といった漆器類、矢筒などの修復技法について修復部材の形状・素材を含め情報を入手することができた。「アイヌ民族の生活関連資料の特質を踏まえた適切な保存修復方針策定についての検討」については、得られた内部構造や素材の情報によって製作当初の状態を類推・再構築することが可能となるとともに、緊急的な保存処理の必要性を有する資料、中長期的に修復作業を要する資料を判別する手順の確立について一定の目途を立てることができた。 以上の結果から、予防的保存の姿勢に基づき、アイヌ生活関連資料の長期的な保存管理・修復計画に資する基礎的知見を得ることを目的とし、X 線CTスキャナを用いた非破壊の三次元的な内部構造調査を行う本研究の当該年度における目標はおおむね達成されたものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究については今後とも、当初計画に沿って推進していく予定である。 実際の作業行程として「アイヌ民族生活関連資料のX 線CT スキャナによる内部構造情報の把握」、「アイヌ民族の生活関連資料の劣化状態および修復部位・修復技法に関わる調査・検討」に関して引き続き調査を継続、さらなる解析を続け、情報の収集・蓄積を行う。また、「アイヌ民族の生活関連資料の特質を踏まえた適切な保存修復方針策定についての検討」については研究分担者、研究協力者と方向性を協議した上で進めることとする。さらに最終年度(平成28年)においては、研究の全体的な取りまとめを行うとともに、「本研究成果の公開・普及」をはかるため、北海道博物館において展示会を開催する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は比較的早期の段階で良好な解析結果が得られ、調査旅費や機器消耗品の使用量が予定よりも節約された結果、次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
発生した次年度使用額については、調査研究費および機器消耗品等の購入にあてることとする。
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