研究実績の概要 |
本年度は2017年9月に米国のフィラデルフィアにあるフィラデルフィア美術館を訪問し、同美術館の協力により、唐、宋、金、元、明、清代にまたがる中国由来の木彫像(仏像31体、神像1体)合計32体から46試料の提供を受けた。これら木彫像につき、顕微鏡標本を作製し、用材の樹種同定を行った結果、仏像については、12体にシナノキ属, 7体にキリ属、5体にヤナギ属、2体にマツ属複維管束亜属, 2体にクスノキ科, 1体にモミ属, 1体にヤマナラシ属、1体にフジキ属が利用されており、神像(正しくはdeity sculpture)については1体にヤナギ属が用いられていたことが判明した。 さらに、San Francisco Asian Art Museum から3体の中国由来の仏像彫刻試料の提供を受け、樹種同定をおこなった結果、キリ属, ヤナギ属, クスノキがそれぞれ1体ずつに用いられていることが判明した。二か所の美術館の仏像彫刻の樹種同定結果に基づいて考察すると、中国由来の仏像彫刻にはシナノキ属, キリ属, ヤナギ属の3種が主に利用されていたという結果であった。既往年度に調査したボストン並びに周辺の9か所美術館から提供を受けた試料の樹種同定の結果ではキリ属とヤナギ属が多用されていた。上記のデータを総合して考察すると、中国由来の仏像彫刻には広葉樹のシナノキ属, キリ属, ヤナギ属が主に利用されていたという結論に至った。中国由来の仏像彫刻の樹種同定数がかならずしも多くはないが、わが国の仏像彫刻に針葉樹のヒノキやカヤが多用されていることと対比すると、現時点において中国由来の仏像彫刻とわが国の仏像彫刻の用材には実質的な違いがあることが確認された。今後、地域や時代、あるいは木彫像の種類と用材との関連性などの有無について研究する必要がある。
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