研究課題/領域番号 |
26350399
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
小口 千明 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (20312803)
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研究分担者 |
青木 久 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (30423742)
早川 裕弌 東京大学, 空間情報科学研究センター, 准教授 (70549443)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 塩類風化 / 岩屑 / 石造文化財 / 環境観測 / TLS / MEM / オーバル修道院 / 吉見百穴 |
研究実績の概要 |
本課題では、フランスおよび国内における風化状況を石造建造物ないし石造の考古学遺跡を通じて検討している。2014年度における研究実績は以下の通りである。 フランスには11月に赴き、現地調査を行った。ランス大の共同研究者とともに、オーバル修道院(ベルギー)の調査に行き、継続して観測中の温度・湿度データを収集した。近代の建造物壁面をTLS(Terrestrial Laser Scanning)により計測し、壁面の劣化状況を把握した。また、ランス市内でも新たな対象壁面を設置し、TLS計測を行うとともに析出塩類を採取した。これらの塩類はXRD(X線粉末回折)分析の結果、石膏とテナルダイト(Na2SO4)であることが判明した。 吉見百穴については、2ヶ月に1度のペースで調査を行った。計測対象としての新たな観測壁面を設置し、温湿度自動測定センサーも追加設置して今後の観測体制を整えた。また、剥落岩屑量と壁面後退量を定期的に把握できるよう、岩屑収集シートとMEM(Micro Erosion Meter)を設置した。調査のたびにこれらのデータを収集するとともに、壁面のエコーチップ硬度を測定している。観測壁面とは別に、坑道奥の複数の地点からも塩類を含む表面変質物と岩石試料を採取して実験室に持ち帰り、XRD分析、SEM観察、および水-岩石反応実験を行った。その結果、場所により変質物の主体は異なり、おもに、塩(石膏)による白色変質物、鉄酸化による黄色~褐色の変質物、微生物(蘚苔類)黒色および紫色の変質物(バイオマット)として分布していることが判明した。なお、坑道内の空間放射線量についても測定したところ、線量値が坑道外部よりも高いという結果が得られた。これは、吉見丘陵を浸透した水の影響を受け、放射性物質の濃縮が起こったためと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の初年度の実施計画として最重要の位置づけにあるTLS計測を、フランスおよび日本国内の双方の調査対象で行うことができた。吉見百穴においても、新たな対象壁面を設け、環境データのみならず、エコーチップ高度や水分状態などの岩盤物性、岩盤の剥離量、MEMを用いた形状に関する詳細な計測を行う準備が完了した。現時点では、TLS計測結果や、吉見百穴の新データが集まりつつある段階である。また、採取試料の分析や室内実験も行い、新知見につながる予備的な成果を得ることができた。吉見百穴の坑内にて測定した空間放射線量の値は予想外に高い値となり、別の視点からの研究としても発展し得る可能性がある。以上の点を考慮し、「おおむね順調に進展している」と判断した。2015年度は、これら様々なデータを継続して収集し、詳細に解析・検討し、研究内容を深めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
岩盤および石材壁面の風化に伴う剥離は、観測壁面全体に進行することは稀であり、どこで生じるか予測しにくい現象であるため、定期的な観察が欠かせない。2015年度は、2014年度に準備して計測し始めた様々なデータを継続して収集するとともに、詳細に解析することに重点をおく。以下の調査を予定している。 【フランスにおける調査】1) オーバル修道院については、ランス大の研究者らから提供されている写真を詳細に分析するとともに、9月にTLS計測を行う予定である。2) 9月の調査の時に、2014年に新たに対象としたランス市内の壁面の劣化状況も調査する。その際、熱画像の撮影と水分量の把握も調査項目に入れ、吉見百穴での調査と比較できるようにする。 【吉見百穴における調査】1) 2015年度も、2ヶ月に1度のペースで現地調査を行う。継続して、環境測定、エコーチップ硬度測定、MEM、水分量の分布状況を調査する。2) TLSについては、これまでに計測した3時期のデータを詳細に解析する。3) 吉見丘陵全体を浸潤する水の動きについての知見を集め、地下水質の形成や放射性元素の納集に関する基礎情報を収集する。 【室内実験】フランスおよび日本の双方の調査対象から採取した岩石試料を用いて、水-岩石実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は、試料の収集と分析をより丁寧に行い、実験を行う必要がある。少額ではあるが、実験器具や試薬の購入に充てるため、繰り越すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の使用として、試料の分析や室内実験で用いる試薬やガラス器具等の費用に充てる。
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備考 |
Song et al.(2014)の発表は、 EGUのBiogeomorphology部門でベストポスター賞を受賞した。
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