北アルプスの標高1500 m以上の地域に存在する地すべり地形を対象にして、滑落崖にあたる斜面の植生を空中写真判読と現地調査によって分類した。分類された植生を緯度と標高の軸に沿って分布特性を把握し、地すべりの影響が気候条件(気温と積雪深)によってどのように異なるのかを検討した。その結果、北アルプス北部では標高2000 m以上で草原が卓越し、それ以下の標高では低木林が卓越していた。しかし南に移動するに従って草原と低木林は減少し、北アルプス南部では針葉樹林が卓越していた。滑落崖の相対的な形成年代、面積規模、斜面方位も考慮したうえで積雪深との関係を検討すると、滑落崖の植生は積雪量の違いを背景とした雪圧の強さの違いに影響を受けて成立していると推察された。すなわち、地すべりの発生を契機として形成される植生は、積雪量の傾度にそって多様な組成と構造をもつものであると考えられる。 重点的に調査する地区と位置付けた梓川上流域の二つの隣接する支流、玄文沢および善六沢の流域において、昨年に引き続き植生調査を実施して植生の記載データを追加した。前年度に検討した、比較的明瞭な地すべり地形の他に、対象流域内には輪郭や微地形が明瞭でなくなった古い地すべり地形が複数個所で見られる。それらの古い地すべり地には、多数の萌芽枝を出しながら株を維持しているサワグルミやカツラの優占する林分が見られるところが存在した。これらの林分は地すべりによって新たに形成された立地環境と結びついて、半永続的に維持されている可能性があることが推察される
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