研究課題/領域番号 |
26350405
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
大内 俊二 中央大学, 理工学部, 教授 (00185191)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 降雨侵食実験 / 隆起速度 / 隆起速度の閾値 / 実験山地の発達 / 降雨強度 / 流水侵食 / 斜面崩壊 / 堆積域の幅 |
研究実績の概要 |
隆起と降雨侵食による地形発達実験では、隆起速度が下方閾値以下であれば、斜面は発達せず流水による侵食のみによって材料の性質を反映した小起伏面が形成され、隆起速度が上方閾値以上であれば、斜面崩壊と流水浸食による低下をものともせずに山地状の地形が実験条件によって規定される高さまで成長する。隆起速度がその間である場合は、最終的には斜面崩壊と流水侵食による低下が隆起による上昇とほぼ釣り合って、一方的な上昇も低下も見せないようになる。隆起速度が下方閾値以上であれば山地が発達するが、その様相は各種実験条件の違いによってかなり異なる。本年度は、実験山地発達に直接関係する斜面の形成と崩壊の様子を、実験条件(降雨強度と堆積域幅)の違いと関連させて検討した。 どの実験の場合も、開始後しばらくは始原面が隆起とともに上昇し、流水による侵食が隆起域の周りに細かい溝を発達させていく。その後、表面流による谷の発達が進み、平均高度の上昇が隆起より小さくなる。隆起域の最低点と最高点の比高が約60mmを越えるようになると斜面崩壊が多く発生し、崩壊によって生産された物質を水流が域外に搬出するプロセスで侵食が進むようになる。水路はほぼ安定し、地形は大規模崩壊による低下と隆起による上昇を繰り返す。 降雨量が少ないと、この“平衡状態”に至るまでの流水侵食による侵食量が少なく斜面の成長・崩壊が遅れるため、地形は高く流路勾配も大きくなる。堆積域幅が広ければ、侵食基準高度となる扇頂部がより高くなり、隆起域全体の高度も増加する。堆積域が運搬物質の通過域となってからの地形変化はあまり変わらないが、堆積域幅が狭いと比高が小さなうちに流水侵食が進むために谷幅が広くなり、“山地”が分裂する傾向がある。実験においては、斜面が発達するまでの流水侵食の強さと期間の長さがその後の山地の発達や形態に大きな影響を持つようであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、これまでとは異なる堆積域幅の実験を3回行い、隆起速度、降雨強度が同じで堆積域幅が狭い実験の結果と比較した。降雨強度の影響については、これまでの実験結果から降雨強度の異なるものを選び、新たな検討を加えた。一回の実験に時間がかかるため実験例を増やせないことが問題であるが、1年に3回の実験ができたことでよしとしたい。そのうちの1回は隆起域を取り囲む堆積場の幅を方向によって変えたものであり、相対的に幅の広いところの影響が強く出るようであったが、今後の詳しい解析が待たれる。 水路勾配が安定し斜面崩壊が頻繁に起こるようになると、1㎝グリッドの傾斜が、流水による10°~15°くらいの面と、安息角(約34°)以上平均50°程度の崩壊を起こすような斜面をピークとするバイモダルな分布を示すようになる。大規模崩壊が 集中して起こると、斜面の急傾斜部分が減少し20°前後の土石流堆積面に相当する部分が増加する。その後次の大規模崩壊が起るまでに、この面が流水による面に移行すると同時に、隆起と流水侵食によって急斜面が増加する。実験地形が“平衡状態”に達するとこのような変化を繰り返すようであった。以上のような観察から、実験地形の発達を規定する要素として流水による侵食と斜面崩壊の兼ね合いが重要であることが明らかであった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は実験地形発達のプロセスにかかわるメカニズムについて具体的な検討を加える必要がある。一連の実験結果から、これまで検討の対象にしてきた、隆起速度、降雨強度、透水性、だけでなく、斜面崩壊の発生条件を考える上で砂山を作る材料の強度(剪断強度)が重要であることが分かってきた。現在この実験に適応した簡易剪断強度計測装置を開発しており、実験地形発達過程を規定する要素として砂山の強度を加えた検討を進めたい。これまでの実験でも同じ材料を用いて透水係数の測定は行ってきたので、透水性と剪断強度の関係が分かれば、これまでの実験についても剪断強度の影響を推定することが可能になると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の予算は最低限のものと考えていたため、古い機材を自分で修理して使ったり手作りの装置を用いるなど極力支出を抑える方向で実験を進めてきた結果、最終的に若干の残額が出た。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の計画にはなかった剪断強度の簡易計測装置を開発しており、この製作費用に充てたい。
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