研究課題/領域番号 |
26350407
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
高田 雅之 法政大学, 人間環境学部, 教授 (40442610)
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研究分担者 |
小熊 宏之 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境計測研究センター, 主任研究員 (10342734)
太田 貴大 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 准教授 (30706619)
三島 啓雄 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 准特別研究員 (60534352)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 湿地 / 湧水湿地 / 干潟 / 生態系サービス / 文化的サービス / 地理情報システム / 衛星画像 |
研究実績の概要 |
テーマ1「地域社会による、里山的な関わりを想定したモデル」 東海丘陵湧水湿地を対象として、豊田市湧水湿地管理団体へのヒアリング調査をもとに評価解析を行った結果、湿地の美しい景観は、保全活動の動機の一部を構成する重要な要素であるとともに地域の宝であるという認識につながり、また管理団体メンバーのみがその生態系サービスを享受することに保全管理の動機を見出し、さらに次世代や観光者など他地域の住民がその生態系サービスを享受するための環境整備行為も保全管理の動機に直接的に結びついていることが明らかとなった。このことは今年度近接画像を追加したWeb公開画像が文化的側面に作用する可能性を示すものである。また泥炭地と異なる固有の地下水位変動特性も、保全意識の促進に活用できる可能性も示唆された。 テーマ2「都市住民による、存在価値の高い生態系保全を想定したモデル」 東京湾三番瀬における地域関係者の生態系サービスへの理解を促進する上で、干潟生物等に関する面的データに加えて点的データについても重要との判断のもとでこれらの分析を進めた。これをもとに衛星画像による干潟環境区分地図に加えて、質的な評価も含めて自然的サービスの認識が保全意識にどうつながるかについて分析を進めた。並行して広域的な環境モニタリングを簡易化する技術、及び干潟の受益意識と保全意識の相関関係を検討する手法の検討を進めた。 テーマ3「広域的な視点からの政策的利用を想定したモデル」 北海道の湿地文化目録のデータ整備を引き続き進めるとともに、湿地文化を構成する要素抽出におけるテキストマイニング手法の適用について検討を行った。その結果、改良の余地があるものの今後の技術としての可能性が見出された。地理的要素との関係については引き続き試行錯誤を進めるとともに、広域的な価値評価の政策的活用手法についても諸外国の事例を収集し分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
テーマ1「地域社会による、里山的な関わりを想定したモデル」 東海丘陵湧水湿地における現地関係団体からの聞き取り調査をもとに、景観に着目した文化的な価値評価と保全活動動機の関係分析は予定どおり進んでおり、研究の成果が得られる見通しである。またカメラ画像のデータ取得及び地下水位の観測もさらに増強して予定どおり進んでおり、この結果を地域関係者によりわかりやすい形で発信する手法をさらに検討して文化的情報と自然的情報とのリンクのあり方につなげることとしている。 テーマ2「都市住民による、存在価値の高い生態系保全を想定したモデル」 東京湾三番瀬における地域関係者との意見交換結果を研究にフィードバックし、底生生物・魚類・鳥類・水質及び低質・地形に関する空間分布データに加えて、時間軸を含む点的データも入手し分析を進めた。これにより、より効果的な価値認識及び保全意識との関係分析につながることが期待できる。衛星画像による画像分類については、評価方法と併せて引き続き技術的検討を行っている。 テーマ3「広域的な視点からの政策的利用を想定したモデル」 北海道の湿地文化目録について、さらにデータ整備を進めるとともに、湿地文化の特性を示すキーワード抽出方法について、テキストマイニングを用いた手法の検討を行った。並行して広域的な地理データ整備を図り、テキストデータと地理データの関連づけについて検討を加えた。また地方自治体における広域的な価値評価の政策的活用について、引き続き海外で提起されている手法を検討するとともに、事例間の共通性や地理特性と関連づけについて検討を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
テーマ1「地域社会による里山的な関わりを想定したモデル」 東海丘陵湧水湿地を対象として、これまでの聞き取り調査を元に、景観に着目した文化的な価値評価において、資源を取り巻くネットワーク間の相互作用を分析し、認識高揚が保全管理の実践動機に及ぼす効果と、生態系の健全さや広域的な空間認識がそれらに果たす役割を明らかにし、ニーズに応じた効果的な価値認識とステークホルダー自身による持続的な手法改善のあり方を提起する。併せて自然科学からの価値評価支援を継続し、その関連を明らかにする。 テーマ2「都市住民による存在価値の高い生態系保全を想定したモデル」 東京湾三番瀬干潟を対象として、自然の価値を表す面的及び点的データを作成する手法を提起するとともに、これらの情報や資料が地域関係者に対して、どのような価値認識及び保全活動への動機づけに作用するかについて、その及ぼす影響を評価する。それを元に、自然サービスへの理解が、保全を動機付ける文化的サービスにどのようにつながっていくかについて実証的に考察しモデルとなる手法の提起を目指す。 テーマ3「広域的な視点からの政策的利用を想定したモデル」 北海道の湿地文化目録のデータについて、事例から抽出した特性の類似性や地域偏在性などの分析を進め、整備した広域的な地理情報と関連づけ、潜在的な湿地文化分布地図を提起する。これらの結果をもとに、湿地のもつ多様な文化的側面を認識・理解し、包括的に保全するための地域政策のあり方を提言する。以上の3つの事例研究をもとに、日本において想定される湿地の文化的サービス評価に向けて、自然的サービスの果たす効果と、それを踏まえた文化的サービスの実用的な評価手法の研究への寄与を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
①現地調査の繰越:年度内に実施予定であった地下水位観測データの回収及び現地調査について、冬期間の維持管理作業との関係で現地関係者との日程調整がつかず、次年度早々に実施することとした。 ②文化的サービス評価手法検討のための聞き取り調査:資源を取り巻くネットワーク分析調査について、内容を慎重に検討するため、次年度早々に実施することとした。 ③適期の衛星画像購入:東京湾三番瀬干潟の春期(3~4月)の画像入手を行うために、次年度に購入を延期した。
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次年度使用額の使用計画 |
①現地調査の繰越:新年度において速やかに現地調査等を実施する。 ②文化的サービス評価手法検討のための聞き取り調査:今年度の結果を慎重に分析した上で、新年度に改めて現地調査を実施する。 ③適期の衛星画像購入:新年度において春期の画像を検索し、適切なシーンがあれば購入する。
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