研究課題/領域番号 |
26350415
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
秋山 英三 筑波大学, システム情報系, 教授 (40317300)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 社会システム / シミュレーション / 被験者実験 / 人工市場 |
研究実績の概要 |
金融資産市場に広く見られる統計的性質として、いわゆる「定型化された事実(Stylized Fact:以下SF)」がある。本研究では、「人間の認知・行動様式とその異質的相互作用がSFの発生に与える影響」の解明を目指す。既存の人工社会シミュレーションの研究では、SFの発生条件に関しては多くの知見の蓄積があるものの、エージェントの認知・行動モデルの背景に、近年の、資産取引に関する実験経済学の知見が反映されていない。つまり、実際の人間行動、特に、実験経済学の金融資産市場研究の多くで検証された「人間の取引時の認知・行動の様式」との整合性が人工市場エージェントのモデルで十分に考慮されてない。本研究では、V. Smith等の資産市場実験(Smith, Suchanek, Williams Econometrica 1988; 以下「SSW型実験」)の手法を用いて金融資産市場の実験室研究を行い、市場の状態と各主体の意思決定が価格変動に与える影響を分析することで、資産取引における人間の認知・行動の様式を明らかにし、その様式を反映した主体の認知・行動の数理モデルを構築する。最終的には人間の認知・行動様式とその異質的相互作用がSF発生に与える影響の解明を目指す。 本年度の研究では、まず、参加SSW型の被験者実験により、人間の取引行動の様式の分析を行った。具体的には、金融資産取引の経験者から構成される市場に取引未経験者が新規参入した時に、新規参入の発生に由来する戦略的不確実性が、経験者の将来価格予測と取引行動にどのような影響をあたえるかを検証し、新規参入により予測が影響を受ける経験者は半数程度で、かつ、実際の取引行動に影響を受ける経験者はほとんどいないということを明らかにした。研究の成果は、Journal of Economic Dynamics & Control誌に採録された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
参加SSW型の被験者実験により、人間の取引行動の様式の分析を行い、金融資産取引の経験者から構成される市場に取引未経験者が新規参入した時に、新規参入の発生に由来する戦略的不確実性が経験者の将来価格予測と取引行動にどのような影響を検証した研究が、国際学術誌 Journal of Economic Dynamics & Control 誌に採録された他、もう一つの実験研究も既に投稿済みである。また、資産市場とは異なるものの、その他のエージェントシミュレーション研究、被験者実験研究も国内外の学術誌に採録されている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に記したとおり、主体が獲得した「他者の合理性に関する知識・信念・期待」とその結果としての「合理性・認知のレベル」が価格形成に与える影響を分析するため、Ravenテスト(Raven's Advanced Progressive Matrices)で合理性を計測した実験を行う(進行中の研究)。平成26年度の研究を通して、人間の認知・取引行動の様式の分析に多くの重要な研究テーマが見つかっており、シミュレーション研究に重点を移す前に実験研究を多角的に進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は(研究の遂行はもちろんとして)論文の作成・投稿作業に重点を置いたため、成果発表として今年度予定していた海外出張がなく国内での発表のみとなった。研究資料とPC周辺機器の購入が予定より増えたものの、総計として予算使用額が予定より少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
既に一定の研究成果は得られているので、次年度は国外での発表を積極的に行う(既に6月に台湾での発表を予定している)。
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