研究課題/領域番号 |
26350423
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
乾口 雅弘 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (60193570)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | ロバストネス / 不精密ルール / 匿名性 / 順序回帰 / 多基準意思決定問題 / 効用関数 / 区間AHP / 区間重要度 |
研究実績の概要 |
昨年度に述べた今後の推進方策(1)~(3)に関して,以下の成果を得た. (1) ルールとロバストネス:条件部の一部が適合しない場合に分類精度が低下する,ロバストネスの低いルールをロバストネスの高いルールに置き換え,分類器の精度を向上させる研究成果を学術論文として国際誌に掲載した.アンサンブル学習に基づくルール群を用いた推定精度およびロバスト性の向上は数値実験により確認し,その成果を国際会議で発表した.不精密ルールを個人情報保護へ応用し,匿名度が低いルールを不精密度の高い複数のルールに置換し,精度を大きく損なうことなく匿名度を高められることを示した.この成果を国際会議で発表した.所与の匿名度を満たすように不精密ルール群を用いて元のデータ表を匿名化する方法についても考究した.不精密なデータ表になるが、匿名性を満足しつつ抽出されるルール群の推定精度が保たれる性質をもつことを示した. (2)順序回帰:区間順序回帰に対してパラメータ推定問題が線形計画問題となるモデルを考案し,これによりロバスト回帰より少ない計算量で、かつより明解な選好関係の推定が可能となった.この成果を国際会議で発表した.さらに,選好情報の確信度が与えられた場合に確信度付きの選好関係を推定する方法を議論し,数種類のモデル推定法を提案し数値実験により比較した.また,この成果を国内会議で発表した. (3)区間AHP:区間重要度の推定法をいくつか考案し,数値実験で従来法と比較した.提案法の優位性が示され,二つの論文に分けて国際会議で発表された.適切な緩和度パラメータにより緩和法が最良の結果となるが,パラメータ調整を要する.そこでパラメータのない推定法を新たに考案し,予備実験で良好な結果となることを確認した.一方,区間一対比較行列が与えらえた場合も考察し,提案した対数変換法では,区間幅調整により精度が向上できることを示した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) ルール抽出に基づく精度良い分類器の生成に関しては,不精密ルールの抽出およびアンサンブル学習ともほぼ予定通り研究を進めることができた.一方,不精密ルールによるプライバシー保護に関する研究は計画以上に進展し,データ表のプライバシー保護に関する一方法が確立できた. (2) 今後の区間順序回帰の基礎となる,良い性質のもった手法がほぼ確立できた.昨年度の計画には無かったが,選好情報の確信度も線形性を損なうことなく考慮できることを示した.非線形モデルへの拡張は数値実験までには至らなかったが,ファジィ分割による方法とChoquet積分モデルによる方法があることが判明している. (3) 昨年度提案したモデルの優位性を多くの数値実験により確認している.グループ決定への応用の前に,より理論的な考察とパラメータを含まない推定法の考案の重要性を認識した.そこで,パラメータを含まない推定法を考案し,予備実験により,パラメータをうまく設定した緩和法には劣るものの,かなり良い精度を示すことを確認している.また,区間一対比較行列が与えられた場合も考察した.一対比較値が小さめの区間,大きめの区間,適度な区間で与えられる場合の三つに分け考察し,対数変換法による推定法を提案し従来法と比較した.小さめの区間,大きめの区間として与えられる場合には,対数変換法では区間一対比較値を変えない範囲で区間幅の調整が可能で,これをうまく設定すれば推定精度が高められることが分かった.適度な区間で与えられる場合は,従来法で十分な精度で区間重要度が推定できることを確認した. 以上の通り順調に進展しているといえる.
|
今後の研究の推進方策 |
(1)については,まず,不精密ルールでアンサンブル学習を行った場合の分類器の精度とロバストネスの確認を行い,各ルール群による推定結果をどのような方法で集約するのが良いかを議論し,これに関連する今までの成果を纏める.不精密ルールによる個人情報保護に関しては,識別行列や決定行列を用いて,各対象に関する匿名性を満たす不明確ルールの存在条件や,匿名性の観点からの属性縮約を取り上げ,理論的に解析し,どのような組合せ問題になるかを明らかにする.得られた成果は積極的に学術論文あるいは国際会議論文として公表する. (2)については,区間順序回帰を取り上げ,より妥当な区間効用モデルを同定するための評価関数の検討や,ファジィ分割やChoquet積分を用いた非線形モデルへの拡張,与えられた選好情報が矛盾する場合が扱えるモデルの検討を行うとともに,それぞれ得られた成果を学術論文あるいは国際会議論文として纏める.また,矛盾した選好情報を扱うため,ロバスト順序回帰に区間効用モデルを導入することも検討する. (3)については,今まで誰も検討して来なかった,区間重要度の推定法としての望ましい性質(公理)を考究する.この観点から,各手法の妥当性を検討していくとともに,より多くの望ましい性質を満たすように推定法の改良を試みる.この考究により区間重要度推定の本質的な困難さや特徴が明らかになると考えられる.また,数値実験により,望ましい性質と推定精度との関係を吟味する.さらに,望ましい性質の観点から新しい推定法を提案し,その有効性を数値実験により確認する.得られた成果は学術論文あるいは国際会議論文として公表する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度からの繰越額が43万円あったことと,パーソナルコンピュータが予定額より数万円程度安く購入できたこと,成果発表した国際会議での滞在費が開催国より支払われたことなどにより,全体で10万円程度の差額が生じた.
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度も同様に数件の成果発表のための国際会議出張が予定され,うち1件が遠方の南米で開催されることになっているので,無駄なく効率的に使用される見込みである.
|