研究課題/領域番号 |
26350428
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
開沼 泰隆 首都大学東京, システムデザイン学部, 准教授 (90204312)
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研究分担者 |
Khojasteh Yacob 上智大学, 国際教養学部, 准教授 (10726269)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 人道支援サプライ・チェーン / 多目的最適化問題 / 公平性 / 効率性 / 有効性 |
研究実績の概要 |
本年度は,人道支援サプライ・チェーン・ネットワークの設計方法として以下の項目について研究を行い,以下に示す成果を得ることができた. (1)文献調査及び東日本大震災被災地,スマトラ沖地震,トルコ東部地震の実地調査については,文献調査及び東日本大震災の実態調査に関して実施することができた.文献調査としては,Diaz, R., Kumar, S. and Behr, J. (2015)やOzdamar, L. and Ertem, M.A.(2015)の文献を調査し,人道支援サプライ・チェーンにおける数理モデルを参考にして平成26年度に構築したモデルの改良を行った. (2)26年度に構築した多品種フロー・ネットワーク・モデルは,救援物資を平等に届けるという公平性の観点に主眼を置いて検討したものであった.公平性は重要な指標であるが,公平性を重視し過ぎて迅速にかつ効率的に届けるという点が忘れられてしまったことが東日本大震災では指摘されていた.そこで,本年度の研究では公平性に加えて,コスト最小化を目指す効率性及び品切れをせずに迅速な配送を目指す有効性の指標を新たに提案し,これらの3つのそれぞれの指標による配送問題と多目的最適化問題として定式化した配送問題を,福島県相馬市のデータを使用した数値実験により検証を行った.その結果,効率性による結果はコスト最小化を考える指標のため,物資の届かない避難所が多く,かなり偏った結果になった.それに対し有効性の結果は,集積所から遠い避難所では物資の届かない避難所は出てしまうが,配送時間の有効活用を考慮した場合は,効率性よりも多くの避難所へ物資を供給できることが分かった.多目的評価の結果によると,平等性の指標により各避難所への公平な供給を加味しているため,すべての避難所へ物資が供給されていることを示すことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の目標は,(1)前年度のモデルの更新,(2)東北地方太平洋沖地震,スマトラ沖地震及びトルコ東部地震の調査,(3)公平に救援物資を被災地に届ける多品種ネットワークフロー・モデルの開発という項目であった.これらの達成度は以下の通りである. (1)のモデルの更新に関してはDiaz, R., Kumar, S. and Behr, J. (2015)やOzdamar, L. and Ertem, M.A.(2015)の文献調査より得られた知見をもとに,平成26年度に提案した多品種フロー・ネットワーク・モデルの改訂を行うことができた. 次に,(2)の調査については,スマトラ沖地震及びトルコ東部地震の現地調査は断念し,昨年と同様にインドネシア スラバヤ工科大学のPujawan教授に聞き取り調査を行うとともにスマトラ沖地震の被害及び災害救援活動に関する資料を提供してもらうことができた.これらの情報をデータベースに追加することができた.一方,トルコ東部地震に関する情報は米国DePaul大学のAltay教授から地震の概要及び災害救援活動に関する資料を提供してもらうことができ,テータベースに追加した. 多品種フロー・ネットワーク・モデルに関してはモデルの改良を行い,これまで公平性を目的関数としていたが,災害救援の場合は効率(コスト),有効(迅速)さも目的関数として採用し,これらの目的関数を最大化するネットワーク・モデルの検討を行った.さらに,多目的最適化問題として定式化し,複数の指標を同時に考慮したネットワーク・モデルの検討を行うことができた.これらの研究は,研究計画では28年度に行う予定の内容であるが,今回提案した多目的最適化のモデルを用いることにより,災害救援物資の配送を「効率的」,「有効的(迅速)」,「公平」のバランスのとれた観点から検討することが可能となったといえる.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,(1)人道支援サプライ・チェーン・モデルの有効性の評価,(2)人道支援サプライ・チェーン・ネットワーク設計方法の確立,(3)最終成果のまとめを行う予定である. (1)のモデルの有効性の評価に関しては,東北地方太平洋沖地震のデータを用いて,提案したモデルが災害救援サプライ・チェーン・ネットワークの設計に有効である点,及び十分に有効性が発揮できていない点を明らかにして,さらなるモデルの更新を行う. (2)の人道支援サプライ・チェーン・ネットワーク設計方法の確立については,東北地方太平洋沖地震の人道救援サプライ・チェーンの設計方法,平成28年4月に発生した熊本地震の人道救援サプライ・チェーンの設計方法を検討して,大規模な災害発生時における被災者に対しての「効率的」で,「有効」でかつ「公平」な人道支援サプライ・チェーン・ネットワーク設計方法を提案する.また,国外のスマトラ沖地震,トルコ東部地震の被災地において,提案した人道支援サプライ・チェーン・ネットワーク設計方法の有効性の評価を行う. (3)最終成果のまとめについては,国際会議等での発表,学術論文巣への投稿,特に海外の論文誌に積極的に投稿し,大規模災害発生時の人道支援サプライ・チェーン・ネットワーク設計に生かせるように情報発信を行う.特に,東北地方太平洋沖地震の際に問題とされたサプライ・チェーン・マネジメントが熊本地震においても繰り返されている点は重要であり,提案する設計方法が頻繁に発生することのない大規模災害において救援物資を被災地に届ける人道支援サプライ・チェーン・ネットワーク設計を適切に行うことが可能にする方法であることを広く知ってもらうことに努めたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費など当初の計画通りの執行ができなかったために,平成27年度は,28,929円の金額が残ってしまった.同様の理由で平成26年度は10,120円の残金だったので、合計で39,049円のとなっている。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度の計画に沿って適切に執行を行うとともに,最終年度なので残金が発生しないように努める.
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