本研究は、国際輸送における同種・異種の統計データを融合することで、データの高精度化と高度化を行うこと、また、そのための方法論を提案することを目的としている。平成29年度は、貿易統計データの欠損値の処理、価額データと重量データの整合性の分析、船舶動静データと国際貨物データの融合に関して検討を行った。また、ワークショップを開催し、交通データの精度向上や貿易統計の特性・利用等に関する報告を行った。 貿易統計では、国際貨物の輸出入について、価額と数量の両方を記録することが国連により定められている。しかし、年と国によっては10%程度の数量データが欠損する場合が存在する(数量のみが存在して価額が欠損することは、本研究の利用データで存在しない)。1996年から2006年のアジア・オセアニア諸国の国連貿易統計について、数量データの欠損値の状況を解析した結果、2000年を境に欠損値が顕著に減少していることがわかった。この原因として、国連の貿易統計作成方法の標準化(数量単位の統一等)が挙げられる。数量データの欠損に関しては、輸入データと輸出データ間での補完、過去データによる補完の解析を行った。貿易統計の整合性に関しては、価額データと重量データの両方に着目し、それぞれの整合率(輸入データと対応する輸出データの比率)が品目別に異なる強さの比例関係を持つという新たな知見を得た。船舶動静データと国際貨物データの融合に関しては、船舶動静データに存在する船舶の喫水データ等により船舶の積載貨物量を推計することを、欠損値補完法(多重代入法等)の枠組みで実証した。 ワークショップの開催では、本研究を担当する研究者の実績から交通データの精度向上の課題と事例を示し、また、本研究の成果である貿易統計の精度に係る詳細な分析結果と、輸送分野や環境分野における貿易統計の利活用に関して報告を行った。
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