研究課題/領域番号 |
26350472
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研究機関 | 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構職業能力開発総合大学校(能力開発院、基 |
研究代表者 |
横川 慎二 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構職業能力開発総合大学校(能力開発院、基, その他部局等, 准教授 (40718532)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | リチウムイオン二次電池 / 信頼性 / 2変量ストレス / 劣化 / ハザード / 故障モード / トップ事象モード / 影響・危害 |
研究実績の概要 |
第一に、充放電回数と保存時間の2変量ストレスの劣化量に対する寄与、及びそれらの相関を検証する信頼性試験を実施した。試験の前半と後半で保存時間の比率が異なる複数のパターンの試験を実施し、最終的にサンプルが経験するストレスは同一の元で、そこに至る履歴の異なる実験を行った。最終的に到達した劣化量は、全ての条件でほぼ同じであった。実験後、X線CT顕微鏡による内部の非破壊観察、交流インピーダンス法による内部抵抗評価、電池の解体による電極の目視評価、およびX線光電子分光法による電極表面の物理評価を実施した。その結果、劣化の主要因は負極界面のグラファイト層間にインターカレートしたLiが活物質中に固定化され、残留することに起因することが示唆される結果が得られた。また、残留するLiの量はストレス履歴に依存せず、ほぼ等量と考えられる。すなわち、同じ充放電深度の前提のもとでは、劣化量は総ストレスによって決定され、将来の劣化量を予測する際にも現在の状態のみを考慮すれば良いことが示唆される。ただし、実際には充放電深度の差異や、保存の際のSOCの差異による影響も、予測において考慮する必要がある。 第二に、不均一な品質特性の元での寿命分布がワイブルプロット上で上に凸の曲線となることから、その要因と不均一性の影響度について漸近理論とモンテカルロシミュレーションを用いた評価を実施した。 第三に、実際に市場で発生したリチウムイオン二次電池の不具合に関する事例(179件)をパレート分析し、要因系である「ハザード」や結果系である「影響」に着目した不具合対策は網羅性に乏しく、故障モード及びトップ事象モードに着目した対策の方が汎用性・有効性に優れることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
信頼性試験の長期化により、充放電深度や保存の際のSOCが異なる際の影響に関する実験が完了していない。現在、電池製造メーカーとの共同研究を開始しており、提供いただいた市場において様々な条件で使用されたリチウムイオン二次電池のSOHの継時変化を分析する準備を進めている。この結果と、これまでの実験結果の組み合わせにより、計画していた多様な使用条件に対する劣化予測モデルの検討を、平成28年度に行う。 昨今、Clustering modelと呼ばれる欠陥密度に負の二項分布を仮定した寿命分布モデルで、不均一な品質の製品の寿命分布がよく説明できることが報告されている。多数のリチウムイオン二次電池をネットワークした際には、劣化の進行が異なる個体がネットワーク上に混在することから、信頼度の時間変化が同様の傾向を持つことが想定される。このモデルの統計的挙動について漸近理論を用いた評価と、モンテカルロシミュレーションを用いた品質の不均一性と分布形状の相関を評価した。パラメータの推定方法、信頼性試験における中途打切の影響、セグメントの寿命分布としてのワイブル分布の尺度パラメータのばらつきによって分布形状が説明しうることなどを示した。 リチウムイオン二次電池の市場不具合に関するパレート分析より、その市場確立期にはモバイル製品が主の適用分野であったリチウムイオン二次電池で、実際にモバイル環境で発生した事故は少なく、主に充電の最中に発生した事故が大半を占めることがわかった。また、その事故要因(ハザード)は多種多様であり、また最終的に発生している事故の状態(影響・危害)も多種多様である。ただし、その故障の顕在化した形態(故障モード)としては電極の内部短絡、影響・危害の発生する直前の事象(トップ事象モード)としては化学反応の正帰還としての熱暴走が主たるものであることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
共同研究先より提供を受けた市場データの分析に基づき、様々なストレス要因を考慮した劣化予測モデルの検証と、それによる最適保全方策の検討を行う。追加で実施する実験は、それらのモデルの検証を中心として実施する。また、実際に市場において発生した不具合を掘り下げ、システムの設計において留意すべき信頼性設計の項目と、有効な設計技法に関する視点を抽出、提案する。 また、寿命分布形状についての検証的実験を行ない、リチウムイオン二次電池の実効的な寿命分布の検証を行う。実験にて不足する点は、前述の市場データに基づき、想定される寿命分布の検証によって補完する。 リチウムイオン二次電池の事故分析として、前述の市場データの背景や発生事象を信頼性工学における事故発生のフレームワークに基づいて事例分析し、社会インフラとしてグリッド化されたリチウムイオン二次電池で発生しうる事故の特性とその未然防止策を抽出、提示する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験の長期化により、複数回実施を予定していた実験が延期となっている。その際に使用する市販のリチウムイオン二次電池の購入、およびX線CT顕微鏡観察などに予定していた費用が148,250円である。
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次年度使用額の使用計画 |
前述の、追加で実施する信頼性試験のサンプル購入費用として、これを充てる。
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