リチウムイオン二次電池において,充放電劣化と保存劣化の2変量ストレスが,残容量劣化に及ぼすそれぞれの寄与,及びそれらの相関について実験による検証を行い,その挙動を予測するモデルの検討を行った.試験の前半と後半で2変量ストレスの比率が異なる複数のパターンの試験を実施し,最終的にサンプルが経験するストレスが同一の下で,そこに至る履歴が異なる検証を実施した. 複数サンプルによる実験の結果,経路によって到達劣化量に若干の差が生じること,電池セルの個体差に伴う劣化量の差が生じうることがわかった.そこで,2変量ストレスによる変動を,2変量の交互作用を考慮した固定効果モデルで表現した.また,電池セルの個体間差を変量効果として表現し,両者を組み合わせた線形混合効果モデルによる分析を行った.その結果,2変量ストレスの交互作用項は高度に有意であり,両者が混在する一般的な使用条件では充放電劣化の重みが高いことがわかった.また,電池セルの個体間差が劣化において有意となり,これらの品質管理がより重要な要素であることが判明した.作成した線形混合効果モデルは,99%を超える寄与率となり十分に実験結果を説明している. また,共同研究先より提供をうけた数年分の市場データをニューラルネットワークによって分析した結果,市場における製品の使われ方とそれによる劣化が,上記の実験結果を反映する挙動を示すことが判明した.ここでは,市場におけるオンラインモニタリングデータを用いたが,前述の線形混合効果モデルの検討において選択された変数にあたる指標を用いてニューラルネットワークを構築し,予測を行った.すなわち,変動をよく説明する特徴量を統計モデルにおける変数選択の手続きを通じて抽出済みであったものと考えられる.今後,ビッグデータ全体から深層学習で得られた特徴量を,物理化学モデルへ写像することについて研究を進める.
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