研究課題/領域番号 |
26350473
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
小笠原 敏記 岩手大学, 理工学部, 准教授 (60374865)
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研究分担者 |
村上 智一 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 水・土砂防災研究ユニット, 研究員 (80420371)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 津波 / 氾濫流 / 流体力 / 水理模型実験 |
研究実績の概要 |
2011年東北地方太平洋沖地震に伴う津波では,平野部を伝播する津波氾濫流が多くの建物を流失させた.岩手県においても,木造建物の65%が流失あるいは全壊の被害を受けた.陸域における津波氾濫流の流体特性を理解することは重要である.特に,遡上過程における流速の鉛直構造を明確にすることは,建物に働く流体力を正しく評価するためにも必要と言える. 2011年の震災以降,建物に作用する津波氾濫流の流体力に関する研究は,盛んに行われるようになって来たが,陸上に遡上した津波段波の流速の鉛直構造については,未解明な部分が多いと考えられる.本研究では,津波氾濫流を発生させることが可能な開水路による水理模型実験を実施し,津波氾濫流の陸域における遡上伝播特性について検討する.特に,流速の鉛直構造およびフルード数を用いた建物の耐力評価式が提案されていることから,フルード数の鉛直分布を明らかにする.さらに,フルード数で表されるベルヌーイの定理と氾濫流の流体力との関係を明確にし,適用範囲を検証する.その結果,次の主要な結論を得た. (1)水路底面から浸水深の4~6割の範囲で概ね一様な鉛直分布となることを明らかにした.(2)建物の耐力評価式の重要な因子と考えられるフルード数は,最大流速時で鉛直分布が大きく変化するが,それ以深では津波氾濫流の規模や流れの状態に依らず,概ね鉛直一様な分布になることがわかった.(3)通過波流速が急激に増加してから最大になるまでの間,通過波流速と浸水深を用いたフルード数で表されるベルヌーイの定理は,建物の耐力評価に適用させることができないことを明らかにした.(4)通過波で表したフルード数が最大値に達した以降では,建物の耐力評価にベルヌーイの定理を適応できるものと考えられる.つまり,粘り強い建物を考える上で,最大のフルード数になるまで,耐えることができる構造の工夫が必要と考察される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
津波氾濫流の水位および速度は,水理実験を実施して,サーボ式波高計およびプロペラ流速計から得られたデータより水位および流速の時間的変化の特徴を明らかにしている. 高潮氾濫の水位および速度は,海洋モデルを用いてイベント的な気象条件や震災前後の地形変化を踏まえた計算を行っている.また,宮古湾での現地観測より,その水質特性を明らかにしており,これらの情報を海洋モデルに反映させて,計算精度の向上を図っている. 氾濫流発生装置付き数値水槽の開発について,陽的アルゴリムによるMPSの3次元数値水槽は概ね完成し,ベンチマーク問題よりその計算精度を確認している.また,高精度圧力計算可能な2DMPSは,様々な初期水位の基,計算を継続しているところである.
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今後の研究の推進方策 |
流体-建物連成解析の構築:氾濫流発生装置付き数値水槽を用いて,流体-建物連成解析が可能な数値水槽に発展させる.津波・高潮氾濫流の水位および流速の実験値と3次元数値水槽から得られる計算値との比較検証し,その計算精度の信頼性を図る.また,陽的アルゴリズムによる計算時間の更なる短縮およびMPSの粒子法で問題とされる圧力振動の対策として,陽的MPSにPND(Particle Number Density)+DIV(Divergence)条件を組込み,計算の安定化および高精度化を図る.改良された数値水槽を基に,その水槽内に建物を設置し,建物に作用する流体力の面的な分布を明らかにし,粘り強い建物の安全照査を評価できる数値水槽の完成を予定している. 粘り強い建物の安全照査の評価基準化の確立:数値水槽によって,様々な遡上氾濫流における建物の安全照査が可能となり,木造家屋のような低層建物における補強の対策が可能となる.さらに,計算結果をCGによるアニメーションに変換し,防災・減災に資する情報として地域の防災力や防災教育の向上に役立てる予定である.
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