研究課題/領域番号 |
26350475
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宇津木 充 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10372559)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 阿蘇火山 / 火山噴火 / 浅部比抵抗 / ACTIVE観測システム / 繰り返し観測 |
研究実績の概要 |
昨年度は、ACTIVE観測システムを用いた阿蘇火山中岳第一火口周辺での繰り返しモニタリングを継続実施した。 阿蘇火山では2013年9月に火山ガスの放出量が急増し、噴火警戒レベルが2(火口1km以内の立ち入り規制)に引き上げられ、2014年1月に、2011年以来3年ぶりに少量の火山灰放出を伴う小規模噴火が発生した。この後、少量の火山灰放出を断続的に繰り返したが、活動は一旦小康状態となり3月に噴火警戒レベルが1(平常)に引き下げられた。2014年8月には再度小規模な灰放出が再開し再度噴火レベルが2に引き上げられ、続く11月末に大量の火山灰放出を伴う噴火が始まり、約22年ぶりにマグマ噴火が確認された。現在でもストロンボリ式噴火と火山灰放出を断続的に繰り返しながら活発な噴火活動が継続されている。 これら一連の活動期間において、我々は中岳火口周辺においてACTIVE観測システム(人工電流源を用いた高精度電磁探査システム)を行いた繰り返し比抵抗モニタリングを2~3カ月おきに行った。平成26年度においては2014年4月、6月、9月に、また噴火開始後の11月、12月、2月に観測を行った。この観測から、2013年9月から2014年1月にかけて火口底直下200~300mの深度で比抵抗が高くなる変化が見られた。またその後の噴火直後には中岳火口直下の浅部(火口底から約100mの深度)で、比抵抗の急激な上昇が観測され現在までこの比抵抗変化域が継続して見られる。火口周辺での地震波観測、地磁気観測などの結果を総合し、我々はこの変化域の実態が、地下から上昇してきたマグマを捉えているものだと考えている。これらの結果は本研究の最終的な目的である噴火メカニズムの理解に資する重要な成果である。これら観測・解析の結果は2015年5月のJPGUにおいて公表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究で実施された観測により、2014年11月噴火及びそれに先行する火山活動に伴うマグマの移動を示唆する重要な成果が得られた。2014年8月に、第一火口直下200~300mの深度で比抵抗の上昇がみられ、11月の噴火直後には中岳火口直下の浅部(火口底から約100mの深度)で急激な比抵抗上昇が観測された。これらの変化はマグマが地下から浅部に向けて移動したものを捉えていると考えられる。このように、研究の達成度としては本研究の最終的な目的である「火山噴火メカニズムの解明」に対し重要な進展が見られた。比抵抗観測以外の既存観測については、中岳第一火口周辺の地磁気連続観測点のうち火口西側の観測点の一部を再整備し、従来の観測機器を携帯テレメータでデータ転送可能なデバイスに置き換えた。新規デバイスについては、「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」(平成26~31年度)の予算により購入した。これにより、従来より時間分解能の高い観測が実施できる体制を整えた。 一方、申請時に予定していた比抵抗モニタリングの準定常観測システムの構築に関しては遅れている状況である。当初計画では火口周辺にソーラーパネル、バッテリーなどを設置し観測機材を定常的に設置し、従来の繰り返し観測よりも短い時間間隔で観測実施が可能な準定常観測点網を構築する予定であったが、観測準備期間中に火口周辺への立ち入りが規制され長時間の作業が難しくなった事、11月に噴火が開始した事、および業者による新規デバイス作成が遅れている事などから、新たな観測体制の構築よりも既存観測を継続し観測の継続性・連続性を確保する方が重要と考え、従来の、観測毎に機材をインストール・完全撤去を行う方式で繰り返し観測を継続した。
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今後の研究の推進方策 |
現在阿蘇火山は噴火活動が継続中であり、噴火に伴うマグマ移動、地下熱水系の消長などに伴い地下比抵抗が大きく変化する可能性がある。こうした事から今年度以降も既存観測を継続実施し確実にデータの蓄積を重ねる必要がある。そこで、まず従来から続けられてきたACTIVE繰り返し観測を、アクセスが容易な第一火口西側の観測点において継続実施する。第一火口西側の観測点は、これまでの観測から地下比抵抗変化に対しセンシティブである事が分かっており、この点における観測データを蓄積する事が効率良い比抵抗モニタリングにつながると考えられる。特に、上昇してきたマグマに対応すると考えられる噴火直後に見られた火口浅部の比抵抗変化域が、噴火活動に伴いどのように推移するかをターゲットに観測を継続する。 また噴火直後は大量の降灰などから火口周辺での長時間の作業が行いにくい状況であったが、火山活動の推移を見ながら、従来計画を一部見直して観測機材を定常的に設置できる準定常観測点網の構築を実施したいと考えている。特に現在より噴火活動が活発化した場合でも観測実施可能、且つ観測作業中に火山活動が急激に活性化した場合にも退避が容易な火口南西側を中心に、既存観測点網の補強・新設を行う。これにより観測点の空間的密度を高め、従来以上の比抵抗検出分解能を確保する。 地磁気連続観測については、現在火口南側、北側のデバイスは現地収録型でありデータ取得にタイムラグが生じる状況にある。従って観測機器をテレメータ可能なものに置き換える。また噴火活動の状況を見ながら、火口東側にテレメータ連続点を新設し、火口を取り囲むリアルタイム地磁気連続観測点アレイを構築する事を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の当初計画では火口周辺にソーラーパネル、バッテリーなどを設置し観測機材を定常的に設置し、従来より短い時間間隔で観測実施が可能な準定常観測点網を構築する予定であったが、観測準備期間中に火口周辺への立ち入りが規制され長時間の作業が難しくなった事と、11月に噴火が開始した事から、新たな観測体制の構築よりも既存観測を継続し観測の継続性・連続性を確保するため既存観測実施を優先した。また新規観測機材をリースする予定であったが業者による新規デバイス作成が遅れている。こうした事から当初予算で計上していた新観測点網構築にかかわる予算の執行が困難となった。
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次年度使用額の使用計画 |
噴火開始直後の2014年11月から2015年2月頃までは、大量の降灰、火口周辺へのスコリア放出など、火口周辺1km以内での長時間の作業が行いにくい状況が続いていたが、3月頃から灰放出量などもやや落ち着いた状況となっている。こうした火山活動の推移を見ながら、観測機材を定常的に設置できる準定常観測点網の構築を実施したいと考えている。但し、当初は中岳火口を取り囲むよう、火口東側に新規観測点を設置する事を予定していた(現在の観測点は火口の西側のみ)が、第一火口の東側はアクセスが難しく(火口の周りを30分ほど徒歩にて移動しなければならない)、現在の噴火活動が継続している状況では東側観測点の新設は難しい状況である。このため現在より噴火活動が活発化した場合でも観測実施が可能となるよう、既存の西側観測点網の補強(特に退避がしやすい火口南西側に新設)を行うことを予定している。
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