研究課題/領域番号 |
26350482
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
石井 吉之 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (40222955)
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研究分担者 |
平島 寛行 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 雪氷防災研究センター, 主任研究員 (00425513)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 春の大雨 / 融雪洪水 / 積雪内浸透水 / 積雪水分移動モデル |
研究実績の概要 |
北海道母子里で融雪期に行った7回の模擬降雨散水実験の結果を多次元水分移動モデルで再現できるかどうかを検討した。今回の計算には実際の層構造、密度、粒径、含水率を与えて2次元で行い、底面流出量の再現性の指標として流出率に着目した。流出率を計算するために、積雪中の左右の境界条件は自由に流出する条件とし、水みちが左右両端から逃げる場合には底面流出に現れなくなり流出率は1以下になる。また、水みちを再現するために積雪層内に乱数配列を与えるため、計算の際にはこの乱数配列によって異なる水の浸透パターンとなり、それによって流出率も異なる。その影響も考慮するため、5種類の乱数パターンを作成してそれぞれのケースについて、流出率の平均や取りうる値の幅を計算した。その結果、流出率がよく再現できたケースと、再現できなかったケースが現れた。特に、積雪層内部で大きい粒径コントラストがあると、層境界で水がとまり、そこから横方向に水が逃げるため流出率が極端に小さくなることがわかった。このように、散水実験結果をモデルで再現検討することにより、積雪底面流出の出現に最も効くと考えていた積雪層境界の粒径コントラストは、層境界で浸透水の滞留を引き起こすという面では重要であるが、積雪底面流出の出現やその流出率は、層境界を通過した後の水みちの発達の仕方に強く依存することが明らかになった。 さらに、これまで野外で観測された降雨融雪に伴う積雪底面流出の現れ方は、減衰型よりはむしろ圧力伝播型に近くなる。この特徴を水分移動モデルで説明可能かどうかを試行計算した。その結果、層構造や水みち発生条件が整えば圧力伝播型に近い流出が起きることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)野外観測体制の整備と機器設置: 母子里の融雪観測室前の露場において2011~2013年に引き続き、2016年4月にも降雨量を4通りに時間変化させた場合の散水実験を計画している。本年はそのために必要な散水実験用施設を製作した。また、熱収支解析に用いる各種放射量、気温湿度、風向風速、積雪深、降水量などの観測機器の整備と更新を行うと共に、観測データをWebを介して札幌に送信するシステムを開発した。さらに、現有の3.6m×3.6m大型積雪ライシメーターを用いて積雪底面流出量を連続測定も継続中である。 2)模擬降雨散水実験結果のモデルへの入力条件の整理: 母子里で実施された7回の模擬降雨散水実験について、上位/下位層境界の位置、密度、粒径、初期体積含水率、それらのばらつき度合い、傾斜角などの積雪条件、水供給量、底面流出量などの入出力データをモデルへ組み込んだ。 3)国内の水関係学会での公表 得られた成果の一部を国内の水関係学会で発表するとともに、隔年で開催される国際雪科学ワークショップでの発表準備を行った。
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今後の研究の推進方策 |
1)野外観測の継続: 母子里の融雪観測室前の露場において2011~2013年に引き続き、2016年4月にも降雨量を4通りに時間変化させた場合の散水実験を計画している。また、観測事例を増やすために融雪期の大雨イベントを昨年同様の観測体制で待ち構える。降雨前後の積雪構造変化を知るために、積雪断面観測や雪試料のサンプリングを行う。 2)積雪水分移動モデルによる水挙動に影響する因子の寄与度評価: 引き続き模擬降雨散水実験結果の再現計算を行いつつ、積雪層構造を決める多様な因子(積雪深、密度、含水率、水供給量など)がどの程度積雪内部の水の挙動に寄与しているかを、感度分析によって評価する。 3)AvaTech社のスノーゾンデSP2を用いて、積雪期に母子里の山地流域内でGPSを併用しながら積雪構造の面的分布を調べ、積雪寒冷地の分布型水文モデルの最適化に貢献可能なデータを集める予定である。 4)国内の水関係学会、アメリカ地球物理学会などの場での公表: 得られた成果の一部を国内および海外の水関係学会の場で公表する。
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