研究課題/領域番号 |
26350486
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
能島 暢呂 岐阜大学, 工学部, 教授 (20222200)
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研究分担者 |
久世 益充 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 准教授 (30397319)
杉戸 真太 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 教授 (60115863)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 地震活動モデル / 地震発生確率 / 地震動予測 / ライフライン / 機能的被害 / 機能的復旧 / 地震リスク評価 / リスクカーブ |
研究実績の概要 |
2016年4月14日と16日に最大震度7を記録する熊本地震(前震・本震)が発生したため,従来計画の追加項目として,熊本地震によるライフライン被害・復旧に関する調査と予測モデルの検証および修正を行った. まず熊本地震における震度曝露人口と初期停止戸数との関係を検討した.停電に関しては震度5強以上,断水では震度6弱以上,都市ガス停止では震度6弱以上ないし6強以上の曝露人口が,それぞれの停止戸数と相関を示すことがわかった.復旧過程については,電気,水道,都市ガスの順に復旧が早いことは既往地震と変わらないが,熊本地震では水道と都市ガスの復旧期間が大幅に短縮されており,初期被害の軽減効果と,復旧支援体制の早期確立の効果が表れたと考えられる.一方,停電復旧については,復旧の迅速さはほぼ飽和状態に達していると判断された. 次に,ライフライン機能被害・復旧予測モデルについて検証した.大震災クラスにおいては,被災地全域および都道府県レベルで,予測値は実測値と概ね整合することが確認されている.一方,中小震災クラスにおいては,初期被害推計値は実測値とほぼ同等となるものの,復旧過程はやや過大評価の傾向にあることが指摘されている.そこで震度曝露人口に着目して,震災規模に応じて復旧所要日数を調整することとした.阪神・淡路大震災,東日本大震災,熊本地震による震度曝露人口は,震度6弱以上でそれぞれ355万人,631万人,110万人,震度6強以上で165万人,170万人,63万人と推計された.両大震災では予測モデルの適合性が良好であることから,震度6強以上の震度曝露人口の方が支配的要因であると判断される.そこで,阪神・淡路大震災に対する熊本地震の比率38%を復旧所要日数の補正係数として復旧過程を修正した.その結果,いずれのシステムにおいても,復旧所要日数の過大評価が是正される傾向が確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度までに,第1段階(ハザード評価)「地震活動モデルの検討および地震動分布予測」から,第2段階(脆弱性・損失評価)「ライフライン被害・復旧予測モデルの構築」,第3段階(リスク評価)「ライフライン被害リスク評価モデルの構築」に至るまでの成果を得た.平成28年度は,第4段階(リスク判断)「効果的なライフライン防災・減災対策の立案」に進み,「想定地震の絞り込み」までを行ったが,「研究実績の概要」に記したように,4月14日と16日に熊本地震が発生した.供給系ライフラインにも多大な被害が生じたため,従来計画になかった追加項目として,熊本地震によるライフライン被害・復旧に関する調査を行う必要が生じ,数度にわたる現地調査と,被害・復旧データの収集,分析,結果のとりまとめ等に長時間を要した.また,あわせて予測モデルの検証を行い,復旧過程がやや過大評価となっていることから,復旧所要日数の予測モデルを修正する必要が生じた.これに関しては,震度6強の曝露人口による補正が有効であることがわかった.以上が,やや遅れをとったことの第一の理由であるが,予測モデルとしては改善することができている. 第二の理由として,全地震活動モデルのモデル更新が引き続き行われていることが挙げられる.これまでに,2015年版の確率論的地震動予測地図の作成に用いられた全地震活動モデルに基づく分析を終了したが,その後,2016年版が公表され,さらに2017年版の公表も控えている.このように最新データを活用した分析結果の成果発表が望ましいことから,研究期間の延長を申請して継続的に取り組み,第4段階(リスク判断)に繋げることとした.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度においては,2017年版の確率論的地震動予測地図の作成に用いられた全地震活動モデルに基づいて,ライフライン被害リスク評価を実施するとともに,第4段階(リスク判断)「効果的なライフライン防災・減災対策の立案」を実施する. 第一点として,ライフライン地震対策に関する様々な対策オプションによる被害軽減量と必要資源量の検討を行う.具体的には,ネットワーク施設(末端網,幹線網,拠点・基幹施設)の耐震強化,ネットワーク形態の改善,停電対策,早期復旧対策などの対策オプションについて,被害軽減量を推計する.さらに,それぞれの対策を実施するための必要資源量を推計し,上記と合わせて対策効果を総合的に検討する. 第二点として,全地震活動モデルの中から,対象とするライフライン・システムに影響を及ぼす想定地震を絞り込み,リスク低減効果の詳細な検討と防災・減災対策の立案を行う.具体的には,切迫度(30 年発生確率)と影響度(ライフライン被害量)の両面から,ライフライン被害リスクに支配的な地震活動モデルを抽出する.さらに,抽出された地震活動モデルについて,上記の対策オプションの検討を詳細に行い,防災・減災対策について詳細に検討したうえで,効果的な防災・減災対策を立案する.
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次年度使用額が生じた理由 |
確率論的地震動予測地図に用いられる全地震活動モデルの基礎データ構築と,それを用いた震度分布,ライフライン機能被害・復旧データなどの計算処理のため,人件費を計上していたが,平成28年度においては現員での対応が可能であったため支払いが発生せず,平成29年度への繰越となった.また,得られた成果を広く発信するため,海外での研究発表を3回行ったが,このうち1回は平成27年度の残額分の一部を外国出張旅費に充てた.成果発表のための旅費および論文投稿料・参加登録費については,当初計画より増額となったが,上記を差し引いた金額が残額となった.
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度においては,2017年版の確率論的地震動予測地図の作成に用いられた全地震活動モデルに基づいて,ライフライン被害リスク評価を実施するとともに,第4段階(リスク判断)「効果的なライフライン防災・減災対策の立案」を実施する.項目としては,「様々な対策オプションによる被害軽減量と必要資源量の検討」および「想定地震の絞り込みによるリスク低減効果の詳細な検討と防災・減災対策の立案」を行う.調査研究,資料収集,研究打ち合わせを行うため,消耗品費,国内旅費,謝金の使用を計画しているほか,成果発表のための旅費の使用を計画している.
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備考 |
(1) 供給系ライフラインを中心に,地震時の機能的被害・復旧について速報をまとめています. (2) 供給系ライフラインの地震時機能的被害・復旧評価モデルのEXCEL/VBA版を公開しています.
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