研究課題/領域番号 |
26350487
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
牛尾 知雄 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50332961)
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研究分担者 |
金 寛 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90243170) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | レーダー |
研究実績の概要 |
大阪大学吹田キャンパスに設置されているフェーズドアレイ気象レーダおよび西神戸に設置されている同じフェーズドアレイ気象レーダの2台のネットワークを用いて,平成27年度を通じて観測実験を行った。観測実験に先立ち,バルーンを用いたレーダの較正実験を行った。その結果,1dB程度の精度で,レーダシステム全体の絶対較正をすることができた。フェーズドアレイレーダは100仰角にわたる3次元観測を30秒以内に終了できる性能を有している。そのため,従来型のパラボラアンテナを用いたレーダに比して,バルーンなどの飛翔体を効率的に補足することが可能である。本研究によって,そのようなフェーズドアレイ気象レーダの利点を示すことができた。 また,2台のフェーズドアレイレーダネットワークによる,高精度な降雨減衰補正アルゴリズムの研究開発,そしてデータ合成手法の検討を行った。本研究で用いているフェーズドアレイ気象レーダは,X帯の電波を用いている。そのため,降雨減衰の影響を受けやすく,データ利用には補正処理を行う必要がある。本研究では,複数台のレーダを用いた確率論的なアプローチによって,補正アルゴリズムを検討した。その結果,偏波レーダと同等な精度を有する降雨減衰補正・ネットワーク合成アルゴリズムを開発することができた。 また,デジタルビームフォーミング技術を用いた本フェーズドアレイ気象レーダの場合,送信に仰角方向にビーム幅の広い送信波を送信する。そのため,仰角方向のサイドローブレベルが従来型のパラボラアンテナに比して10dB以上高くなり,グランドクラッタおよび強い降雨域の影響を受けやすい。そのため,適応的な信号処理手法が有効であると考えられ,本研究ではMMSE法を応用したグランドクラッタ除去アルゴリズムを検討した。その結果,20dB以上の改善を見込むことができるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.平成27年度において,年を通じて継続的に,複数台によるフェーズドアレイレーダの実験データを取得することに成功した。前年の一台から二台に観測データを順調に増やすことができた。 2.フェーズドアレイレーダの絶対較正を行うことができた。都市域という難しい条件にも関わらず,較正球を用いたバルーン実験を実施し,そのエコーを捉えることに成功した。レーダの較正はしばしば困難であるが,100仰角,30秒というフェーズドアレイレーダの特性を生かして,その較正が比較的容易にすることができるということを示すことができた。 3.ネットワーク条件下での降雨減衰補正手法の検討フェーズドアレイレーダは非偏波であるが,ネットワーク化することによって,偏波レーダによる降雨減衰補正と同等な精度を有することを,米国NEXTRADおよびCASAレーダネットワーク等のデータから数値シミュレーションによって示すことができた。 4.グランドクラッタ抑圧アルゴリズムの検討フェーズドアレイレーダは,送信に広いファンビームを用いるが,同時にグランドクラッタレベルの増加というtrade offがある。そのため,MMSE法を応用して,その抑圧を試みた。その結果,数十dB以上の抑圧に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に得られた以上の成果に基づいて,平成28年度は以下の方針に従って研究を進める。 1.平成28年度においても夏季を中心として観測実験を継続すると共に,基礎的データの取得と衛星観測などの比較を行う。 2.新規の周波数開拓を目指した検討 3.降雨減衰補正アルゴリズムの検討と合成アルゴリズムの実装などを進める
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度においては,継続的な運用と実験データの取得を行うことが出来たが,より進んだ検討,特にレーダシステムのIFユニットからの直接サンプリング実験などについては,機器の不具合から十分なデータを得る事ができなかった。そのため,平成28年度の実験の一部を繰り越すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
大量のデータ処理を伴うため,ハードディスク,計算機用の費用として使用する。また実験および打ち合わせや成果発表に伴う旅費として使用する。
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