近年の日本社会の情報化,高度化に伴い,集中豪雨などに伴う土砂災害,竜巻,雷放電等,災害気象に対する警報,正確な情報伝達の必要性は,年々広く認識されるようになってきている。本研究では,2012年に開発に成功した超高速走査が可能なフェーズドアレイレーダネットワーク,広帯域レーダネットワークそして雷放電の3次元標定装置を核として,大阪,神戸地域を中心に観測網を構築,そのデータ配信処理アルゴリズムの開発とデータ配信システムの構築を行う。 本年度においては,特にデジタルビームフォーミング技術を用いたフェーズドアレイレーダにおいて問題となるグランドクラッタ除去に関して,詳細な検討を行った。デジタルビームフォーミング技術を用いた本フェーズドアレイ気象レーダの場合,送信に仰角方向にビーム幅の広い送信波を送信する。そのため,仰角方向のサイドローブレベルが従来型のパラボラアンテナに比して10dB以上高くなり,グランドクラッタおよび強い降雨域の影響を受けやすい。そのため,適応的な信号処理手法が有効であると考えられ,本研究ではMMSE法を応用したグランドクラッタ除去アルゴリズムを検討した。結果,開発したアルゴリズムによって,20dB以上の改善を見込むことができるようになった。 また一方,フェーズドアレイレーダネットワークは単偏波のレーダであり,定量的な雨量推定が比較的難しいことが知られている。そこで,本研究ではXRainにおける地上付近の雨量とフェーズドアレイレーダにおける最低仰角におけるレーダ反射因子を比較し,動的なZ-R関係を求めることによって,3次元的に密でかつ,30秒毎の雨量を求めるアルゴリズムの開発を行った。結果,フェーズドアレイレーダから推定される雨量は,XRainにおける推定雨量と相関係数0.85以上の相関をゆうしており,平均バイアスが0.2mm/h以内であることがわかった。
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