研究課題
Si製Laue型角度アナライザーを応用したX線DFI(Dark Field Imaging;暗視野イメージング)光学系を用いた位相コントラストCT(Phase-Contrast Computed Tomography)は、数cm角の生体軟組織からなる病理サンプルを、非破壊的に高コントラストで、かつ数10μmの空間分解能で3次元断層撮像することが可能である。しかし、骨や石灰化などの硬い組織を含むサンプルでは、強いストリークアーチファクトが生ずるため、画質が著しく劣化する。本研究の目標は、骨や石灰化のような硬組織を含むサンプルに対しても、良好な画像再構成が可能である位相コントラストCT画像再構成アルゴリズムを考案することである。本課題では、まず、硬い組織を含むサンプルから得られる投影からの再構成画像におけるストリークアーチファクトの発生機序を明らかにした。つぎに、このアーチファクトを低減するデータ処理方法および画像再構成処理アルゴリズムを提案し、その有効性をコンピューターシミュレーションにより実証した。最後に、提案したアルゴリズムの実データへの有効性を検証するために、実際に高エネルギー加速器研究機構(KEK)のビームラインARNE-7AにX線DFI-位相コントラストCTシステムを構築した。本システムを用いて撮像された、骨や関節を含むラット脚および石灰化を含むヒト動脈の投影に対して、提案するアルゴリズムを適用した結果、良好なアーチファクト低減効果を確認した。
1: 当初の計画以上に進展している
提案したアルゴリズムは、コンピューターシミュレーションにおいて、非常に良い性能を示した。さらに、放射光X線を光源とするX線DFI位相コントラストCTシステムを用いて取得した、硬組織を含むex vivoサンプル(リウマチを人工的に発症させたラットの前脚および石灰化を含むヒト動脈;ともに切除後ホルマリンで固定)に対して撮像された実データに対しても、提案アルゴリズムは、予想された以上の画質の再構成画像を取得することができた。
今後は、本研究課題で開発された画像再構成アルゴリズムを用いて、名古屋医療センターの病理医である市原周医師らと共同して、さまざまな種類の乳がんの病理サンプルを撮像してゆく計画である。古典的な病理形態学の源泉になっているのは、ミクロトームにより数ミクロンに薄切された人体組織の平面像である。これまで2 次元組織像で得られてきた膨大な形態学情報により、今日の病理診断における正常組織、良性腫瘍、悪性腫瘍の鑑別が行なわれる。一方で、乳腺非浸潤癌における篩状構造(Cribriform structure)や微小乳頭状構造(Micropapillary structure)など平面では見分けがつきにくい構造も多数あり、近年では3 次元的な観察の重要性が指摘されている。しかしながら、現時点において組織レベルの3 次元像を再構築するための体系的方法が確立されておらず、2 次元組織像による情報の膨大な蓄積に比べると3 次元組織像に関する情報は極端に乏しいのが現状である。そのため、3 次元組織像に関する形態学的情報を蓄積することは病理診断学のバランスのとれた発展を促すと考えられる。乳がん病理サンプルには石灰化領域も多く存在するため、本研究課題で開発されたアルゴリズムは非常に有効であると考える。
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