研究課題
腫瘍血管は正常血管と比較して未熟で、血管の壁細胞と血管内皮細胞との接着が疎であるため血管の透過性も亢進している。また血管壁の厚みも不規則で無秩序な走行をしており、腫瘍の組織間圧は高くなりやすい。さらに静脈系も伴っておらず、かつリンパ管も一般に小さくそのルーメン内は高い腫瘍内圧により機能できない。従って、がん組織の内圧 (interstitial fluid pressure: IFP) は容易に上昇する。我々は、腫瘍組織の増殖や血管・リンパ管新生への関与が知られている細胞外マトリックス分解酵素であるADAMTS1の発現・局在の解析を行うことにより、腫瘍内圧とADAMTS1との関連性を検討してきた。がんの中でも血管・リンパ管の形成が不良で容易にがん間質液が溜まりIFPが上昇しやすいヒト皮膚がん細胞A431と、高転移能を有し血管・リンパ管が比較的豊富なヒト乳がん細胞MDA-MB-231を用いて担がんマウスモデルを作製してADAMTS1の免疫染色を行った。市販されている約10種類に及ぶ抗ADAMTS1抗体を用い検討したが、特異性の面で十分に信頼できるものが得られなかったため、マウスADAMTS1 probeを用いたin situ hybridizationに切替えて解析を行った。A431腫瘍組織では、がんの辺縁部に強い発現を認め腫瘍間質の中でも主に血管内皮細胞あるいは壁細胞様の細胞からの発現が多く見られた。一方、MDA-MB231腫瘍組織では血管壁に加えて線維芽細胞様の細胞からも発現があることが分かった。ADAMTS1は主に腫瘍の間質に発現しており、腫瘍血管の脆弱性、希薄化に関与することで腫瘍内圧を上昇させる方向へ寄与していることが示唆された。さらに、ある種のがん組織においては線維化への関与が示唆されたことから、がん微小環境におけるADAMTS1の持つ複雑な役割が初めて示された。
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J Biochem.
巻: 161 ページ: 389-398
10.1093/jb/mvw083.
薬学雑誌- Symposium Review-
巻: 137 ページ: 印刷中