研究課題/領域番号 |
26350509
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
中楯 浩康 首都大学東京, システムデザイン学部, 助教 (10514987)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 細胞引張試験 / 衝撃ひずみ / 軸索輸送障害 / 細胞外電位記録 / 軸索伸長方向制御 / 神経幹細胞 / Tauタンパク質 / びまん性軸索損傷 |
研究実績の概要 |
本研究では,衝撃ひずみによる軸索損傷が神経細胞の電気的活動に与える影響を明らかにするため,神経細胞への衝撃負荷と神経細胞からの電気記録を1つの実験系で実施する.26年度は,細胞電気記録のための計測系を構築し有用性を確認した.ガラス管をプラーで引いたマイクロピペットに,金属線を挿入することで10μmオーダーの金属微小電極を製作した.計測系は,倒立型顕微鏡,金属微小電極,参照電極,マイクロマニピュレータ,信号増幅装置,A/D変換器,インターフェースボード,ハードディスクより構築した.ラット脳急性スライスを用いて線条体の細胞外電位を計測した結果,光刺激による活動電位の発生を取得することができた.また,近年,頭部外傷のバイオマーカとして注目されているβアミロイド前駆体タンパク質(β-APP)およびTauタンパク質が軸索損傷評価の指標として有効かどうかを検討した.β-APPは軸索輸送物質であり,Tauタンパク質は軸索内の微小管の結合に関与している.β-APP およびTauタンパク質は頭部外傷後に脳脊髄液や血液に漏出することが分かっている.マウス神経幹細胞を分化させ,様々な引張ひずみを負荷し,β-APP およびTauタンパク質の軸索内蓄積を顕微鏡観察することで,軸索輸送障害を定量化した.引張条件は,ひずみを15%もしくは22%に固定し,ひずみ速度を4~50 /sに設定した.その結果,ひずみ15%より22%の方が対照群に比べ有意に軸索内蓄積が多かった.また,ひずみ速度が大きいほど軸索内蓄積は増加したが,その増加は22%の方が顕著であった.加えて,β-APP よりTauタンパク質の方がひずみ速度と軸索内蓄積の相関が高かった.これらの結果より,引張ひずみが軸索損傷に与える影響は,ひずみの大きさによりひずみ速度依存性が異なると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
26年度は,細胞外電位記録用の微小電極の製作,計測系を構築し,その有用性を確かめた.当初の計画では,フォトリソグラフィにより微小電極を細胞培養面であるPDMS基板上に製作する予定であったが,引張変位による電極の導電性の変化が著しく,細胞外電位のリアルタイム計測が困難であると判断したため,マイクロピペット型微小電極に変更した.当初の計画通り,引張前後の細胞外電位計測は可能なため,微小電極の変更による研究課題の遂行に支障はない.また,次年度以降に実施する活動電位変化と軸索損傷を同時に評価するための指標として,Tauタンパク質の軸索内蓄積が有効であることを示した.
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今後の研究の推進方策 |
27年度は,マウス神経幹細胞を用いた細胞外電位計測を実施する.脳切片(組織)に比べ,培養細胞は細胞数が少ないため,電気信号が微弱であることが予想される.計測中のノイズをいかに低減できるかが課題である.また,引張前後で同じ細胞を観察・計測・評価するために,神経軸索の伸長方向を制御する方法を確立する.フォトリソグラフィとモールディングにより,PDMS基板に微小溝を作成し,微小溝の寸法の違いにより,分化割合,生存期間,軸索の長さ,伸長方向にどのような影響があるかを検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費とその他の執行額が当初予算額より増え,物品費より内訳変更した.実験消耗品を効率良く使用したため,物品執行額が当初予算額より減り次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
細胞培養の消耗品購入に使用する.
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