28年度は,マイクロコンタクトプリンティング法を用いて軸索を配向制御した神経細胞に引張ひずみを負荷し,負荷前後の軸索形態と細胞外電位の変化を評価した.フォトリソグラフィとモールディングにより,PDMS(polydimethylsiloxane)製微小溝を作製し,凸部に細胞接着タンパク質を塗布,PDMS培養面に凸部をスタンプすることで,ライン&スペース状の幅0.025 mmの細胞接着部位と非接着部位を選択的に作製した.細胞接着タンパク質をパターニングしたPDMS培養面にマウス神経幹細胞を播種,神経細胞とグリア細胞に分化させ実験に使用した.培養面の引張変位に伴う神経細胞の変形を検討するため,準静的な引張変位に対する神経細胞のひずみを測定した.引張方向に軸索を配向させた神経細胞全体のひずみは,引張変位に比例して増加することを確認した.引張ひずみ負荷実験では,ひずみ10%,15%,20%とひずみ速度10 /s,20 /s,30 /sを組み合わせ,9種類の引張条件で軸索損傷を評価した.引張負荷3時間後に軸索損傷部位に凝集したTauタンパク質を免疫染色し,蛍光顕微鏡で観察した.Tauタンパク質は,頭部外傷後に脳脊髄液や血液に漏出することからバイオマーカーとして注目されている.引張ひずみ負荷により軸索が損傷した神経細胞の割合は,ひずみの増加とともにより低いひずみ速度で多くなることが分かった.一方,引張前後の経時的な観察により,引張後,軸索損傷が起こるまでの時間を計測した結果,異なるひずみ速度による時間変化は認められなかった.以上の結果より,神経軸索の損傷確率は,ひずみ速度の増加とともに高くなることを示した.また,マイクロピペット型微小電極による細胞外電位記録では,引張前後で著しい変化は認められなかった.より感度の高い微小電極を製作する必要がある.
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