高齢者の転倒による骨折などが問題となっている。姿勢に関わる感覚が衰えて姿勢の保持が困難な人に、姿勢情報をフィードバックすることによって、バランス機能の補助が可能である。我々は、そのようなアシスト装置の開発を行っている。これまでに、健常者を対象として、身体を模擬した倒立振子モデルを振動刺激によるフィードバック情報のみで制御する実験を行い。モデルの傾斜角情報をどのようにエンコードすればよいのかを検討してきた。制御成績は、モデルの揺れ(傾斜角)の時系列データの標準偏差によって評価した。 平成27年度までに、2つのエンコード法(モード1および2)について制御成績を比較した。モード1では、傾斜角が3度を超えたら、鎖骨の下に付けたモータを、6度を超えたら、これに加えて肩に付けたモータを振動させるという単純なエンコード法を採用した。モード2では、矩形波のデューティ比を傾斜角に応じてエンコードした。実験の結果、予想に反して、モード1のほうが制御成績がよいことが明らかになった。しかし、学会等で成果発表した際に、生体医工学分野の研究者と議論すると、細かく情報を与えるモード2のほうが有利であるはずであり、結果が矛盾しているとの指摘を受けることが多々あった。 そこで、平成28年度以降は、モード2は複雑なエンコード法を用いているので、使いこなすためには習熟が必要であるとの仮説を検証した。しかし、習熟とともに制御成績は改善されるが、モード1と2の結果が逆転することはなかった。そこで、原因は他にあると考えて、さまざまな検討を行い、エンコード法の設計の際に、時間的な信号を考えていないことが問題となっていることを明らかにした。
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