昨年度まで使用していた蛍光色素のBCECFは蛍光が弱く、薄膜干渉基板による蛍光増強も小さかった。そこで今年度は、新しい蛍光色素として5(6)-carboxy naphthofluorescein(CNF)を使用した。干渉層の厚みが約100 nmの薄膜干渉基板をアミノ基で修飾しアミド結合によりCNFを固定化した。同様の方法でガラス基板にCNFを固定化し、薄膜干渉基板による蛍光増強度を求めたところ16倍となった。このことから、蛍光色素としてCNFは有効であることがわかった。 つぎに、同心円上に偏光するレーザーを用いた顕微鏡の開発と、このときの蛍光増強を調べた。波長635 nmのレーザーをλ/2板を通過させた後に同心円状の偏光板を通過させることで、同心円状の偏光の励起光とした。この励起光を用いた蛍光顕微鏡と薄膜干渉基板を組み合わせて通常のガラス基板との蛍光を比較した。この結果、蛍光増強度は42倍であった。研究当初は約100倍の蛍光増強を期待していたが、結果はその約1/2倍となった。これは、使用した対物レンズの倍率が100倍でN.A.が1.3程度であり入射角の最大は60°程度であるため、同心円状の偏光としたことの効果が弱かったためと考えられる。 最後に、開発した蛍光顕微鏡を用いて、CNFを固定化した薄膜干渉基板上にHEPG2細胞を培養し細胞の蛍光イメージングを試みた。しかし、細胞が薄膜干渉基板上で生育せず蛍光像を得ることはできなかった。 研究期間全体を通して、薄膜干渉基板の作製に適するプラズマ重合膜の選択ができ、細胞を染色するのに適する蛍光物質としてCNFを選択できた。また、同心円状に偏光する励起光を利用することで、蛍光が42倍増強することがわかった。
|