研究課題/領域番号 |
26350527
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
山元 和哉 鹿児島大学, 理工学研究科, 准教授 (40347084)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 高圧力 / ナノ材料 |
研究実績の概要 |
反応場として高圧力に着目し、環のひずみが小さく安定なラクトンの制御重合および、天然多糖の構造化に適用することで、生分解性を有する新奇バイオマテリアルの創製を目的とした。 常圧下(0.1MPa)では重合の進行が困難とされているγ-ブチロラクトン(γ-BL)の高圧力下(~1000 MPa)での開環重合によるポリエステルの調製を検討した。メタノール(MeOH)を開始剤、トリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)を触媒として(γ-BL/MeOH/TfOH = 100/1/0.1)、反応温度40℃、反応時間24時間とした高圧力下での開環重合において、常圧~400 MPa程度まではほとんど重合が進行しないが、800 MPaで転化率44%、1000 MPaで転化率63%のポリ(γ-BL)が得られ、印加圧力の増加に伴い転化率が増加することを見出した。GPCより得られた数平均分子量は、それぞれ6450および7950であり、転化率より算出される理論分子量にも近く、分子量分布も単分散(Mw/Mn < 1.6)であることから、配位アニオン開環重合によりリビング的に重合が進行したと考えられた。さらに種々の開始剤、触媒を適用した高分子量化も検討した。 また天然多糖としてキチンを選択し、この溶解(分散)溶液への圧力印加による微粒子化について検討した。良好な溶解性を有するイオン液体である臭化1-アリル-3-メチルイミダゾリウム(AMIMBr)を溶媒として調製したキチン/AMIMBr溶液に、前処理として高圧過程(1000 MPa, 1hr)を適用した。この溶液をメタノールに浸漬し、超音波処理により分散液を得た。得られたメタノール分散液のSEM観察を行ったところ、粒子状の形態が観察された。さらに単離した沈殿物の水分散液のDLS測定の結果より、水中で約400 nmのナノ粒子形態を維持していることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成26年度は、ラクトンの開環重合および共重合による高分子量ポリエステルの合成と、高圧力下でのキチンの構造化について検討した。 γ-ブチロラクトン(γ-BL)の高圧力下(~1000 MPa)での開環重合によるポリエステルの調製については、ルイス酸触媒存在でγ-BLの開環重合を行った結果、印加圧力の増加に伴い転化率および分子量が増加することを見出した。現在までに、種々の反応条件(印加圧力、開始剤および触媒濃度、反応温度、反応時間など)で高分子量化を検討しているが、数万程度の高分子量体は調製されたものの、更なる高分子量化(数十万程度)には至っていない。現在、種々の触媒を用いて高分子量化を検討している。 天然多糖の構造化としてキチンを選択し、この溶解(分散)溶液に圧力を印加することで、微粒子化やヒドロゲル化を検討した。イオン液体の臭化1-アリル-3-メチルイミダゾリウム(AMIMBr)にキチンを加え、100℃で24時間撹拌することでキチン/AMIMBr (1.0 wt%)溶液を調製し、室温で 1時間、圧力印加(1000 MPa)した。次に、この高圧過程を適用したキチン/イオン液体溶液をメタノール中に浸漬し、超音波処理により分散液を得た。得られたメタノール分散液のSEM観察を行ったところ、一部、ナノファイバーの形態も観察されるものの、粒子状の形態が観察された。一方、高圧過程を適用していないキチン/AMIMBr溶液の場合は、ナノ粒子はほとんど観察されず、凝集していた。さらに単離した沈殿物の水分散液のDLS測定の結果より、水中で約400 nmのナノ粒子形態を維持していることが確認された。現在、形成メカニズムおよび粒径制御について検討している。
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今後の研究の推進方策 |
高圧条件下でのラクトンの開環重合については、γ-BLとβ-ブチロラクトン(β-BL)を用いて共重合化を検討する。さらにβ-BLはキラル化合物であるためR体を単離して、共重合化することで、微生物産生と類似のポリエステル構造の調製を検討する。γ-BLと(R)-β-BLの共重合組成比により、多様な物性を示すことが予想され、共重合体中のγ-BL含率の増加により柔軟性が増すことが期待される。これまでに、γ-BLとβ-BLの高圧条件下での共重合反応を、開始剤にメタノール、触媒にTfOHを用い、所定圧力条件下、40 ℃で検討した結果、圧力の印加によってγ-BLの重合が促進され導入率の増加を確認している。今後は様々な触媒を用いて、高分子量化および組成比を制御した共重合体の調製を検討する。さらに得られた高分子量体の溶媒への溶解性を確認し、キャスト法によるフィルム化および、熱安定性をDSC測定等により評価することで溶融成形による材料化を検討する。 圧力印加による天然多糖の構造化は、天然多糖にキチン、溶媒にイオン液体(AMIMBr)を用いた系については粒径制御を検討する。構造化の駆動力としては、圧力印加による分子間相互作用(水素結合)が強調されることが想定されるため、圧力-温度制御下での構造化について検討する。さらにキチンの良溶媒として、ジメチルアセトアミド/塩化リチウム溶液やメタノール/塩化カルシウム・2水和物溶液などを選択し、この溶解(分散)溶液に圧力を印加することで、溶解性および構造化について検討する。またキチンの誘導体であるキトサン(部分脱アセチル化キチン)についての構造化も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定よりも物品費(消耗品)が安価に入手できたために次年度の使用額(約10万円)が生じました。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額の約10万円については、試薬の購入として5万円程度、国外での学会発表のために5万円程度を使用したいと考えています。
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