研究課題
遺伝子治療への応用を目指し、核酸分子を安定に内包したポリプレックス(ナノ粒子)の開発をおこなってきた。平成27年度は、前年度に確立した調製法をもとに作製したナノ粒子の機能評価と細胞との相互作用評価をおこなった。ナノ粒子はO/W型溶媒拡散法により調製した。ポリアニオンあるいは血清成分の存在下でこのナノ粒子のDNA担持安定性を評価したところ、ポリリジンを用いたポリプレックスに比べ顕著に高い安定性を示すことが明らかになった。さらに、37℃生理食塩水中でポリプレックス/ナノ粒子からのDNAの放出挙動を解析した。ポリリジンを用いたポリプレックスでは、40日後でもDNAの放出は認められなかったのに対し、数平均分子量約7000のポリ乳酸を用い調製したナノ粒子では、およそ30日にわたりDNAが徐放出されていることがわかった。内包物の放出挙動は基材であるポリ乳酸の分子量に依存することが知られているので、分子量を変えることで様々な速度でDNAを放出するナノ粒子を任意に調製できると考えられる。このように、目標どおりDNAの担持と放出の機能が独立した新しい核酸キャリアが開発できたことが明らかになった。蛍光ラベルDNAを内包したナノ粒子と細胞との相互作用を解析したところ、マクロファージに分化させたU937細胞にて顕著にナノ粒子が取り込まれた。DNAの細胞内滞留性を、リポフェクタミン3000と比較すると、ナノ粒子の方が長時間細胞内に残留していることがわかった。また、siRNAを内包したナノ粒子を用いU937細胞のテロメラーゼ遺伝子の発現抑制効果を調べた。コントロールのsiRNAを内包したナノ粒子ではテロメラーゼ活性がみられたのに対し、テロメラーゼmRNAに結合できるsiRNA内包ナノ粒子では顕著に活性が低下した。よって、このナノ粒子はsiRNAによる遺伝子発現抑制効果を誘導できることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
前年度までにナノ粒子の調製法は確立された。本年度実施予定の保存安定性評価、放出挙動変化、細胞内移行性評価は予定通り実施し終了した。当初計画で本年度の実施予定であった細胞毒性評価は未実施であるが、翌年度実施予定であった遺伝子発現抑制効果の評価は既に着手し順調に進行している。以上より、本年度はおおむね順調に進行できたといえる。
siRNAのエンドソームから細胞質への移行性を増強するため、ナノ粒子の表面性状の最適化をおこなう。具体的には、膜融合能を持つペプチドやプロトンスポンジ効果を促進するペプチド/ポリマーをナノ粒子に修飾する。これらのナノ粒子の細胞内分布を蛍光色素を用い解析し最もsiRNAのエンドソーム脱出効率が良いナノ粒子をスクリーニングする。一方、遺伝子発現抑制効果の評価も実施する。ターゲット遺伝子としてはテロメラーゼあるいはTNF-αに焦点をあてる。In vitroでの細胞試験から遺伝子発現抑制に最も効果的なsiRNA配列およびナノ粒子をスクリーニングし製剤の規格処方を一つに絞り込む。最終的には、アジュバンド関節炎を誘導したラットにおいてナノ粒子の体内動態をin vivoイメージングにより、また薬理効果を炎症足の体積評価により評価する。
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Molecular BioSystems
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10.1039/c5mb00631g
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