腫瘍抗原を標的としたDNAワクチンが広く研究されている。しかし、腫瘍抗原は一般に免疫原性が低く、抗腫瘍免疫の効果的な誘導は難しい。我々は、腫瘍細胞に抗原性の高い微生物タンパクの遺伝子を導入して人工的に強いneoantigenを提示させ、抗腫瘍免疫を惹起する戦略を考案した。免疫機構を惹起するための「人工neoantigen」として、様々な微生物抗原を試み、現在は効果が安定して高かった結核菌タンパクESAT-6を選択し、主に使用している。 ESAT-6の遺伝子をコードしたプラスミドを合成し、生体内で高発現するコンドロイチン硫酸被覆型DNA複合体を調製した。得られたコンドロイチン硫酸被覆型DNA複合体を坦癌腫瘍モデルマウスに投与すると著しい腫瘍退縮が認められた。また、動物臨床研究において、イヌの肛門腺腫瘍への治癒効果を評価したところ、原発性腫瘍に対しても顕著な抗腫瘍効果が得られた。 この治療のメカニズムとして、遺伝子導入した腫瘍細胞が分泌する「人工neoantigen」を提示したエクソソームを樹状細胞が捕食し、これを外来危険信号として認識して成熟し、抗腫瘍免疫を惹起していると考えた。 これを検証するために、ESAT-6の遺伝子をin vitro で B16 メラノーマ細胞に導入して培養し,分泌されたエクソソームを,同じB16 細胞を移植した同系坦癌モデルマウスに投与したところ、ESAT-6遺伝子の直接投与と同等以上の著しい腫瘍増殖抑制効果が認められ、この仮説の妥当性が認められた。
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