ナノ秒電気パルスは、強い電気的刺激をナノ秒単位の短時間に限って作用させる手法である。ナノ秒電気パルスを人体の局所で作用させた場合、そのきわめて短い作用時間のため、高電圧ながら安全性が高いという特徴を持つことから、新しい医療手段としての利用が期待されている。本研究はナノ秒電気パルスを局所に作用させることで低侵襲な癌治療を行うための基盤を確立することを目的としている。本年度は癌細胞が持つ腫瘍形成能ならびに転移能に対するナノ秒電気パルスの効果を解析した。ヒト癌由来細胞であるHeLaならびにHCT116は低吸着培養器で培養することで、腫瘍に類似した構造を持つ細胞塊(スフェロイド)を形成させることができる。これらの細胞をナノ秒電気パルス処理した上で低吸着培養器中で培養したところ、スフェロイド形成能の著しい低下が観察され、ナノ秒電気パルスによって癌細胞の腫瘍形成能が抑制されることが明らかになった。続いて癌細胞の転移能に対するナノ秒電気パルスの効果を解析した。HT-1080は高い遊走能を持つヒト癌由来培養細胞として知られており、培養条件下における癌細胞の浸潤・転移のモデル研究に汎用されている。このHT-1080細胞をナノ秒電気パルス処理し、Boyden chamber法により遊走能を解析したところ、ナノ秒電気パルスによって遊走能が著しく低下することが判明した。以上、本年度の研究により、癌細胞が持つ腫瘍形成能ならびに遊走能に対してナノ秒電気パルスは抑制作用を示すことが示され、新しい癌治療法としての有望性がさらに明確化された。
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