研究課題/領域番号 |
26350543
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
鯉渕 晴美 自治医科大学, 医学部, 助教 (20382848)
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研究分担者 |
藤井 康友 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00337338)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 超音波 / 細菌 / バイオフィルム / 検査 / 治療 |
研究実績の概要 |
バイオフィルムの形成は、当大学附属病院入院患者から分離された菌株で行った。入院患者より分離されたStaphylococcus epidermidisを3株入手し、どの株がもっとも多くのバイオフィルムを形成するか検討した。 また、バイオフィルム形成の至適条件も検討した。まず、至適培地の検討を行った。Trypric Soy Broth (TSB), TSB+Horse Serum (HS), Brain Heart Infusion (BHI), BHI+HSの4種類の培地で検討し、TSB単独でそれを生理食塩水で3倍に希釈したものがもっとも適した培地であることがわかった。さらに、培養時間についても検討した。24時間・48時間・72時間の培養時間で比較した。24時間ではバイオフィルムの形成には短すぎ、72時間の培養では溶菌することがわかり、36時間程度が至適培養時間であることがわかった。培養方法は、振盪しながらふ卵器内で培養・ふ卵器内で静置して培養の2方法で検討したが、ふ卵器内で静置して培養したほうがより多くのバイオフィルムを形成することができた。 その後、上記でえられた結果をもとに、バイオフィルムを6穴wellのひとつに形成し、超音波を照射した。超音波照射機器は当教室にすでに設置されている超音波照射機器を用いた。超音波照射条件は、周波数は1MHz, 連続波, 照射時間は24時間, 超音波強度は12 W/cm2 とした。この条件のもとでは、超音波照射群は非照射群と比較して有意にバイオフィルム定量値が低下した。以上のことから、超音波照射によってバイオフィルムを破壊できる可能性が示唆された。 また、人体への安全性が確認されている、骨折治療に使用する「セーフス」(帝人ファーマ株式会社)を超音波照射機器として、同様の実験を行った。(超音波強度 30mW/cm2, パルス波, 照射時間 20分)セーフス照射群とセーフス非照射群とではバイオフィルム定量値に有意差はなく、セーフスはこの条件下では、バイオフィルムを破壊することは困難であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず、バイオフィルムを形成する至適条件を検討するために当初の予定以上時間を要した。これは、培地の選択・培養時間・培養方法など詳細まで検討する必要があったためである。実際に至適条件下でバイオフィルムを作成し、超音波照射を開始するまで約半年かかった。 さらに、「細胞の培養とバイオフィルムの作成」に約3日かかり、さらに手元にある超音波機器を用いると、1回の照射(24時間)につき1wellのみしか照射できないため、1週間につき1回の照射のみの結果を得ることができなかった。したがって、10回の検討をするために10週間要している。 しかし、いったん照射を開始すると特に問題なく円滑に照射回数を重ねることができ、さらに手元にある超音波照射機器のみならず、すでに安全性が確立されている骨折治療機器「セーフス」での検討も同時に行うことができ、実験計画よりはやや遅れているものの、円滑にすすめていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
1.バイオフィルムを破壊するために必要な超音波最小強度の決定:平成26年度に行った検討では、超音波強度が12 W/cm2 と他の文献と比較するとやや大きめであった。今年度は超音波強度を更に下げて検討し、バイオフィルムを破壊しうる最小の超音波強度を決定する。 2.中心静脈カテーテル内への超音波照射:実際に体内に挿入される、中心静脈カテーテルにバイオフィルムを形成し、そのカテーテルに超音波を照射し、カテーテル内に形成したバイオフィルムへの超音波の影響を検討する。 3.バイオフィルムを形成する株の同定方法の確立:種々の臨床分離株を集めて、バイオフィルムを形成する株であるか否かを検討する。具体的には、MALDI Biotyper (BRUKER社) を用いて、バイオフィルムを形成する株としない株でのマススペクトルパターンの相違を検討する。 4.電子顕微鏡を用いたバイオフィルム破壊の形態的変化の観察:当初の予定通り電子顕微鏡を用いて、バイオフィルム破壊の形態的変化も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請当初、バイオフィルムを形成する菌株は輸入・購入する予定であったが、細菌の輸入の手続きは非常に煩雑であり、時間も要することがわかった。迅速に研究を遂行するために、菌株は当大学附属病院入院患者から分離された臨床分離株を使用することとした。そのため、菌株購入額を大幅に削減することができた。また、平成26年度は超音波照射によるバイオフィルム形成に及ぼす影響について、形態的に評価をする予定であった。しかし、まずは定量的な評価が必要であると判断した。したがって予定していたバイオフィルム形態的評価の謝金も削減することができた。 以上の理由から次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度に参加した日本臨床微生物学会において、BRUKER社の質量分析装置MALDI Biotyperによって、すでに臨床で使用されている細菌の同定のみならず抗菌薬耐性菌か否かの判別の研究が進んでいるという情報を得た。このことからこの質量分析装置によってバイオフィルムを形成する株か否かも判別も可能であろうという仮説が生じた。バイオフィルムを形成する株が質量分析装置によって簡易に同定できれば、中心静脈カテーテルへの超音波照射の臨床応用への実用化も現実的なものとなると推測できる。したがって、当初の予定にはなかったが、質量分析装置による検討に対して新たに費用が生じる可能性がある。次年度使用額はその補填に当てたいと考えている。
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