研究課題/領域番号 |
26350546
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
足立 吉隆 芝浦工業大学, システム工学部, 教授 (70407229)
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研究分担者 |
中村 朝夫 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (50155818)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 積層造形法 / マネキン / エポキシシリコーン / ジメチルシリコーン / メタクリルシリコーン / 紫外線硬化ゲル / 光ラジカル重合 / 光カチオン重合 |
研究実績の概要 |
平成27年度は引き続き1)紫外線硬化ゲル(UVゲル)に用いる母材の研究と接着・積層方法の研究,2)血管や心臓,肺などの空洞部分を造形する方法の研究を行った. 1)本研究では臓器の三次元構造を再現する方法として,積層造形の原理を用いている.光重合性物質の液滴を平面状に並べ,紫外線を照射してゲル化し,形状を固定する.さらにその上に,光重合性物質の液滴を平面状に並べ,紫外線を照射してゲル化し,形状を固定すると同時に下部の層との接着も行う.これまでの研究では光重合性物質を光ラジカル重合でゲル化した場合に,下の層と上の層の接着が難しいという問題点があった.並行して研究を進めてきた光カチオン重合では接着が期待できるが,ゲル化速度が遅いという問題点があった.本年度は様々な母材や手法を実験的に確認した結果,母剤には分子の両末端にエポキシ基を有するエポキシシリコーンを用いて,重合反応の開始剤には紫外線を照射することでカチオンを発生させる光酸発生剤,硬化を促進する光増感剤,ゲルの硬さを調整する希釈剤にはジメチルシリコーンを加えることにした.さらには重合開始時に加温するという方法を用いることで,これまでの光ラジカル重合と同等のゲル化速度を可能にすることができた. 2)血管や心臓,肺などの空洞部分を造形するには,空洞となる部分にUVゲルではない物質を埋め込み,臓器の三次元形状を作った後にその物質を溶解させて取り出すことにした.様々な材質を検討した結果,光重合性物質の液滴を平面状に並べる際に寒天水溶液を空洞となる部分に敷き詰め,硬化させることにした.寒天は融点が85~93度,凝固点が33~45度であるため取り扱いが比較的簡単である.問題は光重合性物質の液滴と寒天水溶液が混ざらないように硬化させる方法であるが,寒天水溶液の濃度を調整することにより対応可能であることが実験により確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光ラジカル重合反応を用いた紫外線硬化ゲルの硬化方法では,周囲にある酸素の影響を受けるために架橋反応が進まないという問題があった.このためシリコーンを滴下する装置全体を窒素で満たす必要があり,実験装置がたいへん大掛かりなものになっていた.本年度は主に光カチオン重合に関する研究を行い,光カチオン重合反応を用いた紫外線硬化ゲルにおいても,光ラジカル重合反応と同様に,硬度調整を可能にする方法を確立した.今回作製した紫外線硬化ゲルの硬度の範囲は1.8kPa~840kPaであり,柔らかい脳や硬い筋肉を造形することが可能である. 血管や心臓,肺などの空洞部分を造形するために寒天を利用する造形方法を案出した.これを実現するためにはディスペンサで光重合性物質の粒子を並べるのではなく,1mm間隔で多数の穴が開いた型を使って一斉に光重合性物質の粒子を作製する必要がある.ただし前後左右の粒子と混合するので正確には粒子状の形体ではなく,液体の光重合性物質が造形ステージの上に広がった状態になる.このとき型に開いた穴の中で空洞になる穴の部分には光重合性物質の代わりに寒天水溶液を入れておく.このようにして型を引き上げると,寒天水溶液の周りを光重合性物質が取り囲んだ状態になる.これに紫外線を照射して光重合性物質を硬化させると同時に温度を調整して寒天水溶液も硬化させる.このようにすると空洞になる部分が寒天で,その周囲を紫外線硬化ゲルが取り囲んだシートが出来上がる.これを接着させながら積層することで三次元形状が出来上がる.その後,全体の温度を90度に上昇させると寒天が溶解して,その部分が空洞になる.この造形で重要になるのは光重合性物質と寒天水溶液が混ざり合わないことである.そのためには寒天水溶液の比重を光重合性物質と同じにすればよく,これは寒天の濃度を調整することで達成可能であることが実験により確かめられた.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度も理論と実験を両輪とした研究を実施する.いくつかの実験を並行に行う必要があるため,足立研究室と中村研究室に所属する修士と学部の学生が実験の補助を行い,効率的に研究を進める予定である.具体的には中村研究室で理論的検証と予備実験を行い,その結果を基にして足立研究室で三次元造形の検証実験を行う予定である.平成26年度に足立研究室で開発したディスペンサを搭載した積層実験装置の改修が平成27年度末に終了した.この改修では積層実験装置全体にカバーを取り付け,カバー内部に窒素を充填することが可能になった.これにより光ラジカル重合反応と光カチオン重合反応の両方の実験が窒素空間内で行えるようになった.さらに造形を行ステージ上部には空洞を作るための型を装備した.この型には直径0.8mmの穴が900個空いており,30mm四方の積層造形が可能になった.この積層実験装置を効率的に使用することでスピード感を持った研究を行っていく. 積層実験装置により,平成28年度では特に肺や気道あるいは心臓や血管のように,内部に空洞がある臓器や組織の三次元造形方法の確立を目指す.改修した積層実験装置では光ラジカル重合反応を用いた三次元造形方法と光カチオン重合反応を用いた三次元造形方法の両方で,寒天を内包させた紫外線硬化ゲルシートの作製が可能となり,それを積層しながら空洞を作る造形実験を行うことができるようになった.造形できるサイズは30mm四方と小さいが基本的な検証実験が可能である.一方,光カチオン重合反応の予備実験ではシリコーンに顔料を混入させた場合の特性実験がまだ行われていないため,これを速やかに実施する予定である.顔料を混入させて紫外線硬化ゲルに着色すると,硬化の特性や物理的な特性が変わる可能性が高い.この基本的な特性を実験により求めることが,より人体特性に近い三次元造形につながると考えられる.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額(B-A)は104円で,ほぼ計画通りに使用している.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額(B-A)は104円で,計画に特段の変更予定はない.
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