研究実績の概要 |
今回の研究期間を通して、我々は神経栄養因子midkine(MK)やBrain derived neurotrophic factor (BDNF)の発現量、グリア増生、血管増生、アポトーシス、酸化ストレスに着目して、脳梗塞発症前の定期的な運動による脳梗塞後の神経保護作用機序について免疫組織学的および分子生物学的に調べた。 3週間のトレッドミル運動後にラットに脳梗塞を作成し、運動群の脳梗塞体積は非運動群と比較し有意に縮小しており、機能改善も認められた。ペナンブラ(梗塞周囲巣)領域では、反応性アストロサイトのマーカーであるGFAPや毛細血管のマーカーであるPECAM-1の発現が有意に増加し、BDNFやMKの発現が有意に増加しており、MKが反応性アストロサイトから 産生されていることを確認した。神経細胞死に関与するCaspase 3とフリーラジカル組織傷害のマーカーであるNitrotyrosine(NT)の変化を確認した結果, 運動群のCaspase 3と NTの発現量が有意に減少しており, 神経栄養因子の発現増加がCaspase 3や NTの活性化を抑制している可能性が示唆された。 さらに運動頻度を変化させ神経保護効果に及ぼす影響を調べた。脳梗塞発症前に週1回、3回、5回で3週間定期的にトレッドミル運動を行い脳梗塞発症後の神経保護効果を免疫組織学的に検討した。その結果、非運動群と比較して週3回以上の運動習慣により脳梗塞巣の縮小効果、運動機能改善を認め、ペナンブラ領域のBDNF発現増加、Caspase 3発現減少が観察された。週1回の運動習慣では脳梗塞巣の縮小効果は見られなかった。低頻度の運動習慣では神経保護効果はなく、高頻度、少なくとも週3回以上の運動頻度で効果が期待できることが示唆された。
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