研究課題/領域番号 |
26350593
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研究機関 | 帝京科学大学 |
研究代表者 |
橋本 眞明 帝京科学大学, 医療科学部, 教授 (30156294)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 人工二酸化炭素泉 / 局所水浴 / 筋疲労回復 |
研究実績の概要 |
炭酸泉(CO2濃度≧1g/L)浴では、皮膚血管を拡張させ血流を増加させる効果が知られ、心臓・循環器系疾患の治療に用いられてきた。泉浴部の皮下骨格筋血管の拡張、血流増加の可能性も示唆されたことから、本研究では、炭酸泉浴による筋血管への作用が、筋の活動パフォーマンスへ影響するか否かを検討した。 健康成人(男性5名、女性4名)を被験者として左右同時に握力測定した(最大努力の握力発揮6秒間に続いて5秒の休息、これを30回繰り返し1セット)。セット間に10分休息し、3セットの計測を1回とした。被験者は10分の休息中に前腕を腕浴用装置内に置いた(浴槽内は、人工単純CO2泉(A)、または水道水(B)で満たすか、空(C)の状態)。各被験者は1週間以上の間隔をあけ3回の実験(両腕をC、右腕A・左腕B、右腕B・左腕Aの3種類の処理をする実験)に参加した。1回の実験では片側の腕を浸す水は同種とした。室温は22~24℃、水温は中性温付近とした。 各セット初回の握力に対する、30回目の握力低下の割合は、第2セットで男女とも非利き手の握力が室温下放置における減少度(45.4±2.3%:男、46.5±2.2:女)とくらべ、男性で29.8±5.0(水道水)、31.2±7.2(CO2泉)、女性で39.1±7.8(水道水)、42.7±2.0(CO2泉)と小さかったが、水道水とCO2泉間には差がなかった。第3セットではいずれも差が無かった。筋疲労回復に対するセット間の前腕処理の影響を評価すべく、各セットの初回の測定値の変化を解析した。第3セットでは、室温下放置と比べCO2泉浸漬で第1セットと比べ最も減少度が小さかったが、有意差は検出できなかった(p<0.08)。水道水処理との間の差も検出できなかった。疲労曲線を指数関数で近似し最大減少幅の50%に達するまでの回数を比較すると、CO2泉処理で有意に大きかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は回復期リハビリテーションへの人工CO2泉応用の可能性を探るための基礎資料を得るべく企画された。本研究期間中に、1)被験者を用い、強運動後の筋硬度について、筋および弾性組織ごとの特性変化を定量化し、人工CO2泉浴の効果を明らかにする。さらに動物実験により、その根拠となる作用機序を解明すべく以下の点を明らかにする。2)人工CO2泉浴による皮膚と筋の血管拡張がPGE2合成酵素遺伝子の発現、および活性化を特異的に刺激する可能性について検討し、血管作用の局所機構を明らかにする。3)CO2泉浴による筋血流の増加作用を確認しつつ、皮膚血管同様、その作用機序に関連する局所機構として遺伝子発現を含めた物質機構を解明する。また、神経性制御の可能性について明らかにし、中枢神経系機構の解明へと研究を発展させるための基礎資料を得る。以上の目的の中で、初年度においては1)について末梢効果器である筋のみならず、制御する神経系をも含めた解析として、筋疲労回復へのCO2泉浴の効果を検討すべく被験者による連続握力測定を行った。その結果、疲労の回復促進と疲労の抑制効果を示唆する結果を得たが、統計学的に有意な差を検出できておらず、実験方法に改善の余地があるかもしれない。本結果は2015年の第92回日本生理学会において発表された。また、同時に測定された筋血流へ影響については、同温度水道水との差が検出できておらず、実験方法に改善の余地があるのか、この実験設定では違いがいのかを確認する必要がある。 動物実験によるプロスタグランディン合成酵素の遺伝子解析では、遺伝子発現量に差が見られていない。 十分ではないものの、研究の進捗状況としては当初の予測と大きな違いが無いと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
運動後の筋の硬度変化を指標として、筋疲労回復に対する人工炭酸泉浴の効果を検討することが当初の目的であった。しかしながら、末梢効果器である筋の特性変化のみに注目するよりも、制御する神経系をも含めた総合的な系への影響を把握することが、理学療法分野における人工炭酸泉の応用を目指す上でより実際的であると考えた。そこで筋力低下を疲労の指標とし、その回復への効果を検討した。筋疲労の抑制と疲労回復促進に対する人工炭酸泉浴の効果の可能性が示された事から、その差が統計学的に意味の有るものか否かを確認することが今後の課題である。握力発揮に最大努力が疑われる例も散見されたことから、被験者の訓練も重要であろう。さらに被験者数の追加、実験方法を多少改善して今後の研究を進める。 動物実験では、血管拡張性プロスタグランディンについて、麻酔下で30分人工CO2泉浴中の3匹のラットから皮膚試料を採取し、DNAマトリクスを用いた遺伝子の網羅的発現解析を試みたが、関与すると想定された酵素遺伝子には発言量の変化が検出されなかった。水浴刺激に対する反応時間の速さから推測されてはいたが、今回の解析からほぼ確認されたことで、酵素量の増加よりも、酵素の活性化過程に対する影響による可能性を調べる必要があり、今後検討を続ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算計上した時点よりも、実際の購入時点で、機材の価格が低下した事、計上した被験者数が満たせず、さらに被験者コストが減少した事によるものが大きい。
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次年度使用額の使用計画 |
当初購入計画のあった筋硬度計の購入。 被験者数の追加費用など、被験者実験関連予算。 動物実験で皮膚の酵素活性を検討するための解析依頼費用を計上する。
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