本研究は、高濃度二酸化炭素(1000ppm以上)を含む温水(人工炭酸泉)の理学療法への応用をめざす研究の一環として行われた。過去の実験結果が示唆した運動中の筋疲労進行や、運動後の筋疲労回復に対する人工炭酸泉への局所浸漬の効果検証が目的であった。過年度実験では最大努力での握力測定で筋疲労を誘導したが毎回最大努力を発揮した証拠が得られなかった。そこで実験プロトコルを変更し、定めた基準値に握力を維持できる時間を指標とし、断続的な握力維持運動に対する途中休息時の人工炭酸泉前腕浴の効果を検証した。 健常成人被験者の利き腕前腕浅指屈筋上で近赤外線分光法による筋血流を、レーザードップラー法による皮膚組織血流を記録しつつ、握力トランスデューサー出力をリアルタイムモニター上で確認し、握力最大値の35%を基準値として維持した。握力維持時間が3秒未満になると10秒間休息、その後続けて基準値維持を繰り返し、握力維持時間が5秒未満になると1セットの終了とし、10分間休憩。休憩中、被験者は前腕を水道水または人工炭酸泉で満たされた腕浴槽内に置いた(水温32~33℃、室温24℃)。被験者は同じ浴水を用いた同様な操作を全3セット行い、1週間以上の間隔で浴水の種類を変えて同様な実験を行った。 各セット初回の維持時間には腕浴の効果が確認できなかった。各セットの維持時間減少過程には、水道水と比べ人工炭酸泉浴後の方が長い傾向にあったが、有意差は検出できなかった。腕浴中の皮膚組織血流、筋血流は、いずれも人工炭酸泉浴時に有意に増加していた(水道水浴では有意差なし)。過年度の結果も総合すると、運動後の人工炭酸泉浸漬による筋疲労回復効果は、最大筋力、筋力維持時間を指標とした筋パフォーマンスの観点からは効果が確認できない。疲労進行の抑制効果は傾向の域を出ないが、筋血流が増加を示したことから、実験条件の検討が今後の課題である。
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