研究課題
近年申請者らは光増感反応により実験的脳梗塞モデル動物を作出する方法(PIT法)を発展させて随意運動の調節領域である運動皮質領域に梗塞巣が限局した実験的モデル動物を作出した。本研究課題では同モデル動物を用いて皮質の運動関連領域の再構築と運動機能の回復に対するトレッドミル走による運動負荷の役割に注目して研究を行っている。術前よりラットを3つの群(脳梗塞運動群、脳梗塞非運動群、非脳梗塞群)に分けてプレトレーニングを実施し、PIT術後翌日から運動群についてはトレッドミル走による運動負荷を1日1回30分課した。運動負荷が機能回復に及ぼす影響の調査:脳梗塞群のラットでは触診により術後右後肢に麻痺が生じる事が分かった。定量的な運動評価をするために、漸増加速する回転ローラー上にラットが乗る時間を計測するローターロッド試験を術前より毎週実施した。その結果、脳梗塞群のラットでは非脳梗塞群に比べて術後翌日で運動機能が低下し、その後回復するしていく事が明らかになった。しかし、現時点の本テストでは運動負荷による回復促進効果は予想ほど高くない。現在、運動負荷の条件(強さなど)の検討やロータロッド試験以外の方法で検証中である。運動負荷が神経細胞の新生に及ぼす影響の調査:脳梗塞術とその後の運動負荷が傷害を受けた運動皮質周辺の神経新生に対する影響について調査するために、BrdUラベリング実験を行った。術後翌日より1週間に渡りBrdUを毎日動物に投与後、翌日あるいは3週間後に灌流固定した動物の脳の薄切片を作成し、免疫染色を行った。脳梗塞群の大脳皮質で梗塞巣近傍にBrdU陽性細胞が出現した。興味深いことに、術後1ヶ月の運動負荷群の梗塞巣近傍に観察されるBrdU陽性細胞数は非運動負荷群のBrdU陽性細胞数よりも有意に多いことが分かり、運動負荷が神経新生を促進する事が示唆された。
3: やや遅れている
上述のように運動皮質梗塞モデル動物に運動負荷を課すと梗塞巣近傍に内在性の神経細胞の新生が促進される可能性を見出し、本研究課題を継続して遂行する見込みがついた。ただし、これらの細胞についても免疫組織学的にcharacterizationする必要がある。また限局した脳梗塞モデル動物の運動機能低下を示すことが出来たが、運動負荷の効果を調べるためには、より多角的かつ詳細な運動機能評価を実施する必要が生じた。
昨年度、運動皮質梗塞モデル動物に運動負荷を課すと、内在的な神経細胞新生が促進される可能性が示唆された。そこで、この意義とそのメカニズムについて検証していきたい。運動皮質梗塞モデルでの神経新生における運動負荷の役割(免疫組織化学的な系譜解析とGABA神経との関連性の解析)運動負荷により促進された(神経と想定される)細胞の系譜解析を行う。実際には、術後より細胞分裂期にのみ取り込まれるBrdUを経時的に腹腔内に投与し、運動負荷群に対して一定期間トレッドミルによる運動負荷を課す。免疫組織化学的にBrdUと神経系のマーカー分子との共染色を行い、BrdU陽性細胞のcharacterizationを行う。同様にGABA神経系のマーカー分子との共染色により、GABA神経系との関係を明らかにする。運動皮質梗塞モデルにおける運動負荷が機能回復に及ぼす効果の検証:運動皮質梗塞モデルの運動評価は梗塞巣の限局性からロータロッド試験だけでは不十分と考えられる。今後さらに軽微な運動障害も評価できる試験を追加して実施する。具体的にはフットプリント法、ビームウォーキング試験など一般的に実施されている方法に加え、動画による運動動作解析を発展させたいと考えている。
現在までの達成度にて述べたように運動負荷により増加したBrdU陽性細胞(神経細胞と期待される細胞)の免疫組織化学的なcharacterizationが進んでいない(BrdU陽性細胞数が増加する条件検討に時間を費やした)ため。
BrdU陽性細胞の同定に関わる免疫組織染色に関わる消耗品(抗体など)や運動機能評価に関わる機材(動画撮像装置やソフトウェア)などに使用したいと考えている。
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Front Cell Neurosci
巻: 8 ページ: 33
10.3389/fncel.2014.00033