研究課題
申請者らは光増感反応による脳梗塞術(PIT法)を発展させ、運動皮質領域に梗塞巣が限局した実験的モデル動物を確立した。本研究課題では同モデル動物の障害領域の限局性を利用し、脳梗塞術後の運動負荷によるリハビリテーションが皮質の運動関連領域の再構築に対してどのような影響を及ぼし運動機能の回復に寄与するのか、また、その機能回復におけるGABAシグナリングの関与について検討している。運動負荷が機能回復に及ぼす影響の調査昨年度、本モデル動物は外見上では運動麻痺が観察されるが、ロータロッド試験だけでは運動障害とその回復度合いを十分に評価できていない事が見出された。そこで今年度は、フットプリント法による足跡解析やビームウォーク試験などの複数の方法で運動評価の定量化を試みた。その結果、評価基準の感度を高めたビームウォーク法にて運動負荷が機能回復に効果的である事を明らかにした。運動負荷がGABAシグナリングと神経新生に及ぼす影響の調査新生細胞の誕生日と系譜を調べることができるBrdUラベリング実験により脳梗塞術およびその後の運動負荷を課すことによる神経新生の影響について調査している。トレッドミル走による運動負荷は術後1週間で生まれたBrdU陽性細胞数の増加に寄与する事が分かってきたので、その細胞の同定を免疫組織化学的に行っている。DCX等の未熟な神経細胞のマーカー分子やGFAP等のグリア細胞のマーカー分子との共染色を行っているが、現在のところ一部の両陽性細胞が認められるだけに留まっている。脳の再構築過程における運動負荷の効果を知るためにも、今後更なる同定が必要である。また、GAD65, GAD67などのGABA細胞のマーカー分子の発現も全体としての分布の変化については大きな差は認められていない。今後脳梗塞近傍のBrdU陽性細胞が富む領域を中心に詳細な解析を行っていく予定である。
3: やや遅れている
上述のように運動皮質梗塞モデル動物に運動負荷を課すことの効果については運動機能面においても脳内での変化についても認められてきたが、新生細胞の同定などの詳細が未解明である。具体的な違いを明らかにして、この点についてGABAシグナリングの影響について探求していく。
運動皮質梗塞モデル動物に対して運動負荷を課すと、運動機能の回復と内在性の神経細胞と思われる細胞が増えてくる事が分かってきた。当初の計画では幹細胞移植後の運動療法についても検討する予定であったが、研究を進めて行くに当たり、まずは内在性神経細胞を指標として「運動療法の在り方」について検討する重要性に気付いた。神経新生やその後の分化・定着などを促す運動処方の明らかになれば、移植実験後のリハビリにも生かすことができる。そこで、本年度は、異なる運動処方の方法がどのように運動機能の回復と神経新生を含む脳の再構築過程に影響を及ぼすのか、そして、その過程に対してGABAA受容体はどのように関わるのか、について検討する。運動負荷が神経幹細胞移植による神経回路網再構築と運動機能回復に及ぼす効果上述の通りBrdUラベリング実験により脳梗塞術後に新生ニューロンと考えられる細胞が増加することが分かってきたが、多くの細胞は未同定である。神経幹細胞のマーカーや成熟神経細胞のマーカーなどを用いた免疫組織化学実験を行い、それらの細胞の系譜解析を行う。神経新生と運動機能回復を元にした運動負荷法の検討トレッドミル走の運動強度の他、神経細胞の新生を促進する事が知られる回転ホイールによる自発走による運動負荷法を組み合わせて、実験的脳梗塞モデル動物に課す。これらの運動負荷の違いが運動機能や神経細胞の新生(新生細胞数や成熟神経細胞への分化度合い)やGABAシグナリングに対して与える影響について調査する。また、違いが認められる場合には、機能阻害実験によりGABAシグナリングの役割について検討する。
GABAシグナルの機能阻害実験などのパイロット実験は進んだが、現在までの達成度に述べたようにBrdU陽性細胞の多くの細胞が未同定である。まずはスクリーニングを行う実体を明らかにしたいと考えてきたため使用状況が遅れている。今年度は同定を進めると同時に、運動負荷によるBrdU陽性細胞数や形態的な違いなど他の要素を指標にして研究を遂行することも念頭に入れている。
BrdU陽性細胞に必要な免疫組織化学用の消耗品(特にBrdUラベリングキット)や、各種運動負荷を行うに当たり必要な機器と運動評価系のソフトウェア、そして機能阻害系の実験に使用したいと考えている。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件)
Dev Neurobiol
巻: 75 ページ: 369-387
doi: 10.1002/dneu.22219
J Physiol Sci.
巻: 66 ページ: 175-188
doi: 10.1007/s12576-015-0416-1