研究課題/領域番号 |
26350603
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
倉松 由子 東北大学, 医学系研究科, 大学院非常勤講師 (40634978)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 感覚運動適応 / 運動学習 / ダイナミックバランス制御 / 最適化 / 脳卒中片麻痺 / リハビリテーション |
研究実績の概要 |
本研究では,健常者よりも視覚に依存するといわれる脳卒中片麻痺患者の視覚をあえて制約して全身運動(立ち上がり動作)の生成過程に介入し,その際の運動の変化を片麻痺患者が運動を成功にみちびくための知覚と運動の適応過程としてとらえ,新たな視点から片麻痺の運動障害を解明して機能を改善する(運動学習の)手がかりを探ることを目的としている.また,元来不安定な2足直立位の人体構造が,片麻痺を発症することによってさらに不安定要素を増すなかで,転倒リスクへの対処についても考慮するものである. 28年度は,立ち上がり動作(開眼・閉眼条件)を片麻痺者群と健常コントロール群において3次元動作解析装置により計測したデータを,運動を調整する知覚のはたらき(視覚と体性感覚)に注目して解析して論文の作成にあたった.そして,全身運動の変化を知覚の相互補完性やバランス制御の視点から,片麻痺者が獲得した制御の適応状況として特徴づけて(各運動要素の変動性の大小を解析して、制御優先度の違いを探る),考察したものを英文誌に投稿した.その際,前年度のバイオメカニズム・シンポジウムで発表した内容に追加して,運動制御時のフィードバック情報の利用特性についても片麻痺者の特徴を記述した.しかし,実験結果の解釈を,既存の研究の理論的な枠組みとの対応性によりも健常者における事象とより対照化し位置づけて説明する必要性を査読者から指摘され,採用に至らなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究の1番目の目的である健常者に対する片麻痺患者の制御特性の違い(何を優先して制御するか)は明らかにすることができたが,投稿した論文は,研究の位置付けと結果の解釈の記述に不十分なところがあった.健常者に関するこれまでの知見と照らし合わせて,本研究の結果の意義をより明確に理解できるよう,イントロダクションと考察を大幅に書き直し,図も一部修正して再投稿を予定している. 2番目の目的である,制約により残存能力が発揮されやすい条件・状況を探ることに関しては,片麻痺の障害特性を入力系と出力系の2つ大別して振る舞いを解釈することで新たな洞察が得られそうなので,別な視点からの解析を考慮中である.
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今後の研究の推進方策 |
先ず、健常者に対する片麻痺患者の全身運動の制御特性の違いについて,査読者の指摘を受けて修正した論文の出版を目指す. 次に,3次元動作解析装置で計測した片麻痺者の開眼・閉眼条件での立ち上がり動作データの運動力学的変数や運動学的変数を,知覚条件の違いによる逐次的変化から分析し,片麻痺者が獲得した視覚制約への適応として麻痺側の残存機能がより活用される現象を取り出す試みを継続して行う.そして,運動を知覚によって制約することの運動学習(運動適応)へのポジティブな意義を見つけ出して,そこに潜む規則性を明らかにする.その際,損傷部位の違い(入力系か出力系か)による特徴から片麻痺者の特性との関連を検討した解析もあわせて行って,具体的なリハビリテーションへの手がかりを検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
一昨年度に予定より多くの繰越金が発生し,また,希望していた雑誌への掲載や予定していた研究会での発表が行なえなかったため.
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次年度使用額の使用計画 |
研究結果をまとめた論文をオープンアクセスの雑誌に発表することを考えているので,出版費用や論文作成費用(英文校正,図や写真の変換ソフトなど),および学会発表の費用に使用する予定である.
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