研究課題/領域番号 |
26350610
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
石田 和人 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (10303653)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 脳梗塞 / 予防 / 運動 |
研究実績の概要 |
今年度は、脳梗塞モデルに中大脳動脈虚血再開通(t-MCAO)ラットを用いて、事前に実施する3週間のトレッドミル運動がもたらす脳梗塞の障害予防効果を示すとともに、同期間のトレッドミル運動により発現する遺伝子の網羅的解析を試みた。また、モデルの再現性が高いと考えられる新しい脳梗塞モデルの確立にも努めた。 脳梗塞モデル作成前に3週間のトレッドミル運動(15 m/秒の速度で30分間を毎日実施)を行うと、脳梗塞発症24時間後、運動を実施しなかった群と比べ梗塞体積が軽減し、運動および感覚機能の障害が軽減される効果を示した。またこの時、抗酸化作用の指標となりうるsuperoxide dismutase (SOD)の活性を調べたところ、脳梗塞を生じさせたのみのラットに比べ、事前の運動を実施しておくとSOD活性が高い傾向を示した。このように脳梗塞発症前に運動を実施すると、抗酸化能が高まり、神経保護的な作用をもたらす結果、脳梗塞による障害をある程度抑制することが示された。 次に健常なラットを用いて、上記に示した3週間のトレッドミル運動がもたらす影響因子を解析する目的で、DNAマイクロアレイ法による発現遺伝子の網羅的解析を試みた。3週間の事前運動を行うことにより発現の変化を示すいくつかの遺伝子が抽出されたが、その後、リアルタイムPCR法を用いてこれらの因子について発現量の変化を確認するも、いずれの因子についても発現量の変化を認めなかった。 また、MCAOモデルラットを用いた実験系から、一定の研究成果は得られたものの、本モデルは再現性の点で問題を有することを痛感し、運動等を事前に行わせて予防効果を確認する本研究の流れにおいては、より再現性の高いモデル動物を確立することが必至と考えられた。そこで、新しい脳梗塞マウスの実験系を確立すべく準備とモデルの試作に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、事前に実施する運動およびカロリー制限を手段として、脳梗塞モデル動物に対する障害予防効果を調べ、そのメカニズムを検討することを目指している。平成26年度においては、運動の効果については一定の結果が得られたものの、カロリー制限についての検討はできなかった。また、脳梗塞のみならず、認知症モデルを対象とした研究にも応用することを狙いとしており、その点も今後の課題と考えられる。 事前3週間の運動の効果については、中大脳動脈虚血再開通(t-MCAO)ラットを用いた実験系を用いて検討を進め、特に抗酸化指標の一つであるsuperoxide dismutase (SOD)活性を計測し、その有意性を示すことができた。本事項についてはSODのサブタイプにも着目し、運動による抗酸化能の変化ならびに脳梗塞の障害予防効果について解析を進めたい。 さらに健常ラットを用いて、3週間のトレッドミル運動がもたらす効果の因子を解析するため、DNAマイクロアレイ法を用いて、いくつかの遺伝子に着目したが、発現量が量的に変化を示す遺伝子を確認するには至らなかった。 また、新しい脳梗塞モデルの確立向けて実験環境を整えることができた。まず、開発者の方にご指導を頂く機会を得て、我々の研究室でも安定的な再現性を保証する動物モデルとして作成可能な環境(機械器具のセットアップ)および手術法の習熟に向け、試作を試みる段階まで進めることができた。これについては実験データを得る段階には至っていないが、今後の展開に向けた重要な足がかりになったものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題における今後の取り組みとして次のような点を検討し進めていく。 まずは、新しい脳梗塞マウスモデルを確立し、運動による予防効果を検証する。本モデルは再現性の高い脳梗塞モデル動物として報告され、特許も取得されている。このモデル作成方法を習得し、安定的な実験系を立ち上げる。その上で、前述のように、従来の脳梗塞ラット(MCAO)を用いて、平成26年度までに確認した事前3週間の運動による障害予防効果について改めて確認する。 また、カロリー制限のプロトコールを立案し、同脳梗塞モデルの障害予防効果についても検討する。上記のように新しい脳梗塞モデルを用いることで、再現性のある脳梗塞モデルが作成可能となることから、事前に実施する介入(運動およびカロリー制限)による脳梗塞に対する神経保護効果を適切に示すことができるものと期待している。 また、これらの実験系が円滑に進められるようになった時点で、認知症マウスを用いて、同様に運動およびカロリー制限による神経保護効果を検討し、特に行動学的解析の手法を用いて、同モデルマウスの記憶学習機能に着目し、その予防効果を検証する。なお、認知症マウスには、アルツハイマー型認知症の危険因子と言われているアポリポ蛋白E4(ApoE4)のノックインマウスを使用する予定である。同モデルは、週齢に伴い、認知機能の低下が報告されていることから、本研究のような予防的介入の効果を示すことに有用であると考えられる。
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