研究課題/領域番号 |
26350628
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
岩田 晃 大阪府立大学, 総合リハビリテーション学部, 准教授 (90382241)
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研究分担者 |
樋口 由美 大阪府立大学, 総合リハビリテーション学部, 教授 (60312188)
淵岡 聡 大阪府立大学, 総合リハビリテーション学部, 教授 (30290381)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 運動速度 / 歩行速度 / 運動介入プログラム / 高齢者 |
研究実績の概要 |
本研究は,高齢者の歩行機能の改善のために,運動速度に着目したトレーニングが有効であるかを検証することを目的としている。運動速度とは,上肢,下肢,体幹など,身体の一部を出来るだけ速く動かした際の速度を指す。今年度は,その第一段階として,1)運動速度と歩行機能の関係の検証,2)若年者を対象として,運動速度トレーニングを実施し,その効果と安全性を確認すること,3)本研究の対象であるリハビリテーション患者に対する研究組織を構築すること,の3つを実施した。 一つ目の運動速度と歩行機能については,先行研究において,下肢や体幹の運動速度が歩行速度と関係することが示されているが,歩行に直接影響を与えない部位の運動速度と歩行機能との間に有意な関係が認められるかは明らかにされていなかった。そこで,歩行に影響を与えない上肢の運動速度を測定し,歩行速度の関係を調べた結果,有意な相関が認められた。この結果から,運動速度自体が歩行速度にとても重要な役割を果たすことが明らかとなった。さらに,運動速度は高齢者の転倒を予測する因子であることを示した。 二つ目の若年者を対象とした運動速度トレーニングでは,約20分間の下肢を出来るだけ速く動かすトレーニングを実施した結果,走行速度が向上するという結果が得られた。このトレーニングは通常の筋力トレーニングと比較し,自覚的な強度が小さく,安定した姿勢で安全に実施出来ることから,高齢者を対象とした研究への応用が可能であることを示すことができたと考えている。 最後に,リハビリテーション患者への応用を検討した研究組織の構築についてであるが,来年度から実施を開始するために,5施設による多施設共同研究を実施する案をまとめることが出来た。今後は,術後患者を対象として,運動速度と歩行機能の関係について検証を行った後に,介入研究を実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在のところ,概ね順調に進展していると考えている。その理由として,まず,本研究の前提である高齢者の歩行における運動速度の重要性を示すことができた点にある。さらに,この運動速度が,高齢者のADLにとって最も重要であると考えられる転倒と関係があることを示すことができた点からも,運動速度は高齢者の歩行にとって,非常に有用な指標であると考えられる。本研究は,運動速度に着目したトレーニングを実施することを目的としているため,その前提を確認できたことに大きな意義がある。 また,この運動速度に対するトレーニングの効果と安全性を若年者で確認できた点も非常に有意義であると考えている。若年者に実施した範囲では,疼痛や疲労の訴えがほとんど見られず,しかも移動能力の向上に効果的であったことから,この方法を高齢者に汎用することが可能であると考えている。 さらに,これらの結果をもとに,リハビリテーションの患者を対象とした多施設共同研究のための組織作りを行った。組織は大阪府下の5つの病院から成り立ち,予定では半年で150名程度の患者のデータを集積することができる。今後は,横断研究を実施し,その結果,想定通り,運動速度と歩行速度の関係が認められれば,介入研究を進めて行く予定である。
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今後の研究の推進方策 |
まず,多施設共同研究を実施するための準備を進めていく。現段階では,人工膝関節全置換術を受けた患者さん(5病院,150例)を対象として,歩行機能と運動速度の関係を明らかにする予定である。具体的な評価方法として,歩行速度,Timed up and go test (TUG),膝関節伸展運動速度,膝関節伸展筋力,疼痛(Visual analog scale),関節可動域について,術直後から退院までの期間測定し,その関係性と変化について検証する。運動速度の測定には,今年度購入したジャイロセンサーを用いて行う予定である。その結果,歩行と関係があると考えられている筋力や疼痛以上に,運動速度が重要であることが示されるかどうかを明らかにする。この段階で,運動速度が重要であることが示されれば,次の段階へ進む。 次の段階では,運動速度のトレーニング方法を検討する。座位で,できるだけ速く動かす運動速度トレーニングを考えているが,具体的な実施方法については,今後の検討課題である。 同時に,若年者を対象として,運動速度トレーニングによって,運動速度そのものが改善するかの検証を行う。昨年実施した運動速度トレーニングで走行速度が向上することが示されたものの,運動速度が向上するかについての検証は行えていない。そこで,ジャイロセンサーを用いて,膝関節伸展と上肢の運動速度の測定を行い,運動速度トレーニングによって,運動速度が変化するかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
多施設共同研究を進めて行く中で,必要な物品に一部変更があり,予算の変更が生じた。具体的には,購入を検討していた歩行分析装置以上にジャイロセンサーが必要であることが分かったため,歩行分析よりもジャイロセンサーの購入を優先させたため,予算の変更が必要となった。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度,多施設共同介入研究を進めていくために,運動速度を測定するためのジャイロセンサー,および,筋力測定器(ハンドヘルドダイナモメータ)の追加購入が必要となる。また,会議費や退院後のアンケートのための諸経費が必要となる。 また,今年度は,研究の成果の発表として,国際学会への参加を検討しているため,学会参加費,旅費等が必要である。
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