研究実績の概要 |
本研究における免疫染色によりPGP9.5やCGRPを含む感覚神経の分布を正常ラットやマウスの軟口蓋、咽頭及び喉頭粘膜で調べた結果、咽頭と喉頭及び口腔との境界に、PGP9.5やCGRPを含む感覚神経線維が豊富であるという結果が得られた。さらにTRPV1、TRPM8を含む神経線維も粘膜下に認められたが, TRPV3、TRPV4陽性神経線維は観察されなかった。また軟口蓋、咽頭及び喉頭における筋肉にはPGP9.5やCGRP陽性運動終板が豊富に観察された。一方、嚥下困難を有すると考えられる実験動物を用いた実験では、筋萎縮症モデルマウスにおいて、頸部の筋肉に異常が発見された。一部の喉頭に付着する筋にエオジンの濃染が認められ、筋線維の萎縮も観察された。起始と停止部位から、この筋肉は輪状甲状筋であることが同定できた。また、舌根、咽頭、喉頭、口蓋、食道の筋では、多くのCGRP陽性運動終板が観察された。筋萎縮症モデルマウスにおいても、これらの組織にCGRP陽性運動終板が豊富に認められた。ほとんどの筋では、CGRPの分布に大きな差はなかったが、輪状甲状筋の運動終板におけるCGRPの発現は非常に強く、この筋での運動終板の変性が確認された。一方、舌根、咽頭、喉頭、口蓋粘上皮下や上皮内のPGP9.5やCGRP、TRPV1、TRPM8, TRPV3、TRPV4の分布は正常マウスの分布と同様であった。また、ALSモデルや加齢マウス及びラットの軟口蓋、咽頭及び喉頭粘膜におけるPGP9.5やCGRPを含む感覚及び運動終板の分布は正常ラットやマウスのそれらと大きな変化は認められなかった。TRPV1、TRPM8, TRPV3、TRPV4の分布も正常ラットやマウスと同様であった。嚥下困難を有するさまざまなモデル動物の舌、咽頭、喉頭における筋肉や神経分布を明らかにできたのは、本研究テーマの大きな第一歩であると思われる。一方で、本研究の過程で観察された筋線維の萎縮や運動終板の変性の原因の同定は不十分であり、今後は、さらなる検討が必要とされる。
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